日本不整脈心電学会

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リードレスペースメーカの施設要件・術者要件に関するステートメント

2017年9月1日 日本不整脈心電学会

I. 評価する医療機器の概要

 ペースメーカは、徐脈に対する確立された治療法として知られ、広く普及している。世界では毎年60万人に、本邦でも平成27年度は4万人近くの患者に新規植込み術が施行された*1
 従来のペーシングシステムは、通常、胸部の皮下ポケットに植込まれる電子部品および電池を内蔵したペースメーカ本体と、同部位から経静脈的に心臓まで送達される導線(リード)からなり、右房または右室の任意の部位にペーシング治療を行う。そのため、鎖骨下静脈穿刺時や、静脈に留置したリードと皮下に植込まれた本体が原因で合併症が起きることが問題とされてきた。
 今回、新しく開発されたリードレスペースメーカMicraは、デリバリーシステムを用いて鼠径部から大腿静脈を経由して心内に直接留置することを目的に小型化(1.0cc, 1.75g)されたペースメーカシステムである。従来のペースメーカ機能である、1.5/3テスラ全身MRI対応、加速メーターベースのレートレスポンス、キャプチャマネージメントなどを有している。また、経静脈的に本体を心内に留置することで、従来のペースメーカが必要とした植込み機器用の皮下ポケット作成およびペーシングリードの挿入・留置が不要となるにもかかわらず、従来と同様の便益を享受しつつ、かつ、これらに起因する合併症が回避されることが期待される*2。さらに、現行の技術水準では不適格とされる患者(鎖骨下アプローチができない患者など)に対しても、ペースメーカの利用可能性が高まると考えられる*2

II. 対象疾患

 本リードレスペースメーカMicraの適応基準は、AHA/ACC/HRS(2008)等のガイドライン*3におけるペースメーカ適応ClassⅠおよびⅡで、心室シングルチャンバペースメーカ(VVI型ペーシング)に適した患者である。具体的には、1)心房細動を合併した、症状のある発作性もしくは持続性の高度房室ブロックの患者、2)心房細動を合併しない、症状のある発作性もしくは持続性の高度房室ブロックで、右心房へのリード留置が困難、または有効(有用)でないと考えられる患者、3)症状のある徐脈性心房細動または洞機能不全症候群で、右心房へのリード留置が困難、または有効(有用)でないと考えられる患者、が妥当と思われる。

III. 諸外国での使用状況
  1. 米国:
    2016 年4 月に、リードレスペースメーカMicra が、FDA より承認を受けて販売が開始された。製造販売後調査は、9 年間の長期成績を観察することを目的に実施されている。
  2. 欧州:
    2015 年4 月に、リードレスペースメーカMicra が承認された。製造販売後調査は、米国と同様に長期成績を観察することを目的に実施されている。
  3. その他の国:
    米国・欧州以外の国における導入状況は下記の通りである。
    オーストラリアでは、2016 年11 月に薬事承認を取得しているが、製造販売後調査は実施されていない。ニュージーランドでは、2015 年4 月に薬事承認を取得し、製造販売後調査も実施されている。
    カナダでは、2016 年10 月に薬事承認を取得しているが、製造販売後調査は実施されていない。
    南アフリカでは、2016 年6 月に薬事承認を取得しているが、製造販売後調査は実施されていない。
IV. 諸外国でのガイドラインの位置付け

 2016 年12 月現在、海外の主要国でリードレスペースメーカのガイドラインは公表されていない。

V. 対象疾患への本邦での治療方法

 対象は我が国や海外のガイドライン*3において、VVI型ペーシング適応ClassⅠまたはⅡの患者である。本邦においても、これらのガイドラインに依拠した心内リード付きVVI型ペースメーカの植込みがなされている。当然のことながら、従来のシステムでは、経静脈的リード挿入と本体の皮下ポケット植込み法を選択するしかない。また、経静脈リードの留置が困難な患者(静脈の閉塞、透析用シャントと反対側の静脈に植込みができない等の理由)に対しては、開胸的に心筋リードを留置し、腹部に植込みポケットを作成するしかなく、高い侵襲性と合併症発生のリスクを患者に負わせることになる。

VI. 導入時における治療上の位置付け

 ペースメーカ適応基準におけるVVI型ペーシング適応ClassⅠ、Ⅱで、心房細動や心房粗動の併存、またペーシング時の房室伝導の同期の必要性、さらに患者の年齢、活動レベルなどを考慮したうえで、使用は検討されるべきである。特に、経静脈リードの留置を避けることが望ましい患者に対しては、第一優先の選択肢となる。

VII. 使用する際の留意事項
  1. 添付文書の内容にしたがって使用する。
  2. 経カテーテル留置型ペースメーカの留置に際しては、心内でのカテーテル操作を慎重に行う。特に、造影剤を用いて解剖学的に留置場所を確認し、自由壁を避けて留置する。
  3. 植込み手技中は、適切な抗凝固療法を実施する。
  4. リードレスペースメーカは電池寿命終了後の摘出が意図されていないため、寿命終了後は同型のものを追加する可能性が高いこと、また従来型ペースメーカへの切替えが行われる可能性があることなどを考慮した治療計画を立てる。
  5. 患者に対して、本治療法の長期予後や安全性についてはまだ報告がないこと、従来型のペースメーカ移植術の選択肢があることを明記した文書によるインフォームドコンセントを得る。
VIII. 適応基準

適応基準は対象疾患と同一である。徐脈性不整脈に対する植込みデバイス植込みガイドラインのペースメーカ適応でのClassⅠおよびⅡで、VVI型ペーシングに適した患者のうち、下記の疾患をもつものとする。
1)心房細動を併発した症候性の発作性または慢性の高度房室ブロック
2)心房細動を併発しない症候性の発作性または慢性の高度房室ブロックを有し、心房へのリード留置が困難またはハイリスクあるいは効果的と認められない場合(デュアルチャンバペースメーカの代替手段)
3)症候性の徐脈頻脈症候群または洞機能不全症候群で、心房へのリード留置が困難またはハイリスクあるいは効果的と認められない場合(心房ペーシングまたはデュアルチャンバペースメーカの代替手段)

IX. 経過観察

 プログラマによるインテロゲーションの他、ディスロッジメントがないことを確認するために、単純X線撮影、心電図検査、エコー検査等を、従来型のペースメーカと同様に行う。

X. 実施施設基準

 リードレスペースメーカの新規性と大腿静脈経由の心臓アクセスという現行型ペースメーカ移植術と相違点を考慮して、下記の基準を設ける:

  • ペースメーカ移植術およびペースメーカ交換術の施設基準を満たし、交換を含む手術を常勤医が年間10例以上実施していること。
  • 緊急心臓血管手術が可能な体制を有していること。但し、緊急心臓血管手術が可能な体制を有している近隣の保険医療機関との連携が整備されている場合には、この限りではない。
XI. 実施医基準
  • 不整脈デバイス治療に関する十分な専門的知識を有していること。
  • 関連学会監修の製造販売業者が実施する研修を受講済であること。
XII. その他

 本使用要件等基準は、今後新たに公表される海外での臨床試験のデータや、国内での製造販売後調査などのデータを踏まえて見直しを行うため、将来的に改訂される可能性がある。
 MRI撮像を行う場合は、別途定める施設基準と実施条件の要件を満たさなければならない。

参考文献

  1. Mallela et al, Indian Pacing Electrophysiol J. 2004 Oct-Dec; 4(4): 201–212
  2. Reynolds et al, A Leadless Intracardiac Transcatheter Pacing System, November 9, 2015, at NEJM.org., DOI: 10.1056/NEJMoa1511643
  3. 国内外のガイドライン:
    • “ACC/AHA/HRS 2008 Guidelines for Device-Based Therapy of Cardiac Rhythm Abnormalities” Writing Committee to Revise the ACC/AHA/NASPE 2002 Guideline Update for Implantation of Cardiac Pacemakers and Antiarrhythmia Devices Vol. 51, No. 21, 2008 doi:10.1016/j.jacc.2008.02.032
    • 不整脈の非薬物治療ガイドライン(2011年改訂版)2010年度合同研究班報告
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