日本不整脈心電学会

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日本不整脈心電学会「カテーテルアブレーションライブ」ガイドライン

(2015年5月28日)
(2023年7月10日改定)

1. はじめに

頻脈性不整脈に対する根治療法であるカテーテルアブレーションの普及に伴い, 多くの医療従事者が同時に見学・学習できる機会を増やすために,その治療手技を外部に生中継して討議を行う研究会(ライブデモンストレーション、以下「ライブ」)が行われている。このようなライブでは,経験豊富な術者による術中の的確な思考過程や判断を見聞することが可能であり,スライドや録画データによる症例提示とは質的に異なる学習効果がある。一方,臨床の現場において患者を対象として手術を実施する以上,患者に最良の医療を提供するだけでなく,患者の人権を最大限に尊重しなければならない。日本不整脈心電学会では,適切なライブを実施するために,カテーテルアブレーションのライブに際して準拠すべき基準(ガイドライン)を作成した。

2. ライブ中継の目的

医療従事者を対象に,標準的な手術の適切な施行等に関する教育の場を提供することを目的とする。カテーテルアブレーションの手術手技だけではなく,適応の考え方や術前検査,手術室における医療機器や道具の準備,人員配置,麻酔やモニタリングの方法,新しい医療機器(カテーテルやマッピング機器など)の正しい使用法を提示することもライブの目的である。高いリスクを伴う技術や,まれな手術手技の習得は目的ではない。以上の目的を達成するに当たっては,患者に対する安全な治療が最優先されることが前提となる。

3. 倫理的配慮

ライブでは、以下のような倫理的な配慮がなされなくてはならない。

①ライブ施行に際しては、その内容、実施について実施施設の倫理委員会および施設長の許可を得ること

②ご協力いただく患者には、ライブの特殊性を考慮した十分な説明の上で文章でのインフォームドコンセントを得ること(特殊性の詳細については後述)

③個人情報などのプライバシーが秘匿された状況で行うこと

④ライブ中継中、術者の集中力が低下しないように最大限の努力を行うこと

⑤ライブに関係するCOIを明らかにすること。特定の企業の利益を誘導するためのライブを行わないこと

4. 疾患と症例の選択

対象は遭遇頻度が高く,標準的手術が必要となる疾患である。適応や術式選択に異論のある疾患はライブ症例には不適当である。また、合併症の危険が高い症例は避けるべきである。手術困難な症例が対象となる場合や,適応・術式に対する議論が主目的の場合は,予め収録した録画データで論点を明示して討論する方法を選択することが望ましい。

5. 施設の要件

ライブ中継される対象疾患や術式に熟知した専門医,専任スタッフが常勤し,必要な手術室や医療機器などが整備されていること。また,院内に倫理委員会,安全対策室(リスクマネージメント委員会)が常設されていること。実施に先駆けて倫理委員会と施設長の許可が得られていること。

6. 術者の要件

本学会や委員会・部会で事前に十分検討し,日本不整脈心電学会認定不整脈専門医もしくはそれに準じる能力を有するとみなすことができる医師でなければならない。さらに、手術に対して充分な知識と経験を有すること,日常的に手術を実施していること, ライブ中継の趣旨を十分に理解し実践できること,いかなる場合においても冷静沈着に判断できること,などが必要要件である。

7. 術者と施設の関係

原則として,術者が所属している施設で手術を行う。術者が所属外の施設で手術を行なう場合は,できるだけ自施設と同様の環境となるように準備すべきである。また,手術における責任は手術が行われる施設の医師と招聘された術者が担い,手術は共同で行われる。手術に関する最終決定は当該施設の責任医師により行われる。患者には,施設外の医師を招聘して手術を行うことを事前に説明し,承諾を得なければならない。

8. インフォームドコンセント

ライブの特殊性を考慮したインフォームドコンセントを文書で取得する必要がある。その理解いただく内容としては以下のものがある

①ライブの目的・趣旨

②いつもとは違う特殊な環境下で行われること、治療中に座長・コメンテータとのディスカッション等があり時間が延長する可能性が高いこと、また、治療方針も影響を受けうること

③治療方針(用いる機材や治療戦略)、担当する術者(氏名、所属施設、専門医情報、当該治療の経験)についての情報

④治療中の個人情報の保護について

⑤参加は患者自身の自由意思によるものであり、参加を拒否しても不利益を被ることは無いこと

⑥映像は目的外に使用しないこと。使用する場合には別途説明すること。

9. 術前カンファランス

施行施設では,予め担当術者を含めたカンファランスを行い,安全性,倫理性を確認する。術者が外部より招聘される場合には,術前に患者と面談をする。

10. 企業との関係

ライブに際しては、以下に配慮をする

①スポンサーがあるセッションについては企業名を明らかにすること

②術者、座長、コメンテータのCOIを明らかにすること、その時間を十分に設けること

③特定の企業の利益を誘導するようなライブは行わないこと

11. 座長、コメンテータ、 コーディネータの要件

手技・疾患に精通した熟練した医師でなければならない。座長は円滑な手技の進行および適切なディスカッションを管理できる熟練した医師が担当する 。コメンテータは、 術者に過度のストレスを与えるようなコメントは避けなければならない。手術直前や手術中に適応や術式を過度に討論しない。術者の集中力を低下させる一因になるからである。治療の進行中に生じうる術式選択に関する討論については,患者の治療と安全性が最優先され,最終的には術者の方針が尊重されるべきである。コーディネータは手技の進行、放映が円滑に進行するように配慮・管理できる医師が担当し、予想外の事態がカテーテル室で発生した場合の対処する役割を担う。術者が治療に集中しやすい環境を作るために、三者は協力することが求められる。

12. 視聴者の条件

視聴者は,ライブの目的を十分に理解しておかなければならない。術者としての立場で手術手技の妥当性を自問しながら視聴すべきであり,ライブ中継内での術者に対する質問内容やタイミングは節度を守り, 術者と患者の双方に配慮しなければならない。不適切な発言を繰り返す視聴者に対しては,術者,座長,主催者は発言を禁止するか退席を命じることができる。

13. ライブ中継後の検討会

ライブ中に発言できなかった質問,意見を討論できる機会をライブ中継後に設け,目的を達成しなければならない。

14. 患者予後の確認と事後評価

ライブ中継後,術者または施設責任医師は症例の術後経過を観察し,ライブ内容の妥当性を評価しなければならない。手術に起因した合併症や倫理的配慮などの問題が生じた場合は,その問題点を詳細に検討すること。アブレーション関連大会のライブ等の継続して行われるイベントの場合は、次回のイベントの際に術後の経過や生じた問題点について公表しなくてはならない。

15. おわりに

カテーテルアブレーションのライブは,医療従事者の教育を目的として行われるべきものである。また,中継される手術は患者のための医療の一環であることを認識し,治療が最優先されることを大前提とする。

カテーテルアブレーションに関するライブのガイドラインは,最新の知識・技術および社会情勢により改訂を要する。本委員会はこのガイドラインの運用を実施するとともに経時的に再評価を行う。

日本不整脈心電学会 カテーテルアブレーション委員会

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