日本不整脈心電学会

HOME > ステートメント/ガイドライン/施設基準および資格要件 > ステートメント他 > 「カテーテルアブレーション」ライブ中継ガイドライン

「カテーテルアブレーション」ライブ中継ガイドライン

はじめに

 頻脈性不整脈に対する根治療法であるカテーテルアブレーションの普及に伴い、その手術手技を外部にライブ中継し、多くの医療従事者が同時に見学できる機会が増えてきた。このようなライブ中継では、経験豊富な術者による術中の的確な思考過程や判断を見聞することが可能であり、スライドやビデオテープによる症例提示とは質的に異なる学習効果がある。一方、臨床の現場において患者を対象として手術を実施する以上は、患者に最良の医療を提供するだけでなく、患者の人権を最大限に尊重しなければならない。日本不整脈心電学会では、適切なライブ中継を実施するために、カテーテルアブレーションのライブ中継に際して準拠すべき基準(ガイドライン)を作成した。

1 ライブ中継の目的

 医療従事者を視聴対象とし、標準的な手術の適切な施行等に関する教育の場を提供することを目的とする。アブレーションの手術手技だけではなく、適応の考え方や術前検査、手術室における医療機器や道具の準備、人員配置、麻酔やモニタリングの方法、新しい医療機器(カテーテルやマッピング機器など)の正しい使用法などを教示することもライブ中継の目的である。高いリスクを伴う技術や、まれな手術手技の習得は目的としない。以上の目的を達成するに当たっては、患者に対する治療が最優先されることが前提となる。

2 倫理的配慮

 通常の手術と同様のインフォームドコンセントを得なければならない。さらに、(1)ライブ中継においても個人情報などのプライバシーは秘匿されること、(2)ライブ中継により術者の集中力が低下しないように最大限の努力を行うこと、(3)途中でライブ中継を中止することができること、(4)当該施設の術者以外の複数の専門医の意見を術中に参照することにより質の高い医療を提供できる可能性があること、(5)映像の管理は厳重に行い、ライブ中継および教育的資料以外の目的で使用しないこと、などを事前に説明しなければならない。

3 疾患の選択

 対象は遭遇頻度が高く、標準的手術が必要となる疾患である。適応や術式選択に異論のある疾患はライブ中継には不適当と考えられる。手術直前や手術中に適応や術式を過度に討論することは術者の集中力を低下させる一因になるからである。手術困難な症例が対象となる場合や、適応・術式に対する議論が主目的の場合は、予め収録した手術ビデオで論点を明示して討論する方法を選択することが望ましい。治療の進行中に生じうる術式選択に関する討論については、患者の治療と安全性が最優先され、最終的には術者の方針が尊重されるべきである。

4 施設の要件

 ライブ中継される対象疾患や術式に熟知した専門医、専任スタッフが常勤し、必要な手術室や医療機器などが整備されていなければならない。また、院内に倫理委員会、安全対策室(リスクマネージメント委員会)が常設されていなければならない。

5 術者の要件

 ライブ中継を主催する学会や研究会の当該部門で事前に十分検討され、適任とされた専門医師でなければならない。手術に対して充分な知識と経験を有すること、日常的に手術を実施していること、ライブ中継の趣旨を十分に理解し実践できること、いかなる場合においても冷静沈着に判断できること、などが必要要件である。

6 術者と施設の関係

 原則として、術者が所属している施設で手術を行う。術者が所属外の施設で手術を行なう場合は、できるだけ自施設と同様の環境となるように設備などを準備すべきである。また、手術における責任は手術が行われる施設の医師と招聘された術者が担い、手術は共同で行われる。手術に関する最終決定はその施設の責任医師により行われる。患者に対しては、施設外の医師を招聘して手術を行うことを事前に説明し、承諾を得なければならない。

7 術前カンファランス

 施行施設では、予め担当術者を含めたカンファランスを行い、上記の安全性、倫理性を確認した上で実施する。術者が外部より招聘される場合には術前に患者と面談をしておくべきである。

8 企業との関係

 特定の企業の利益を誘導するようなライブ中継は行わない。

9 ビデオ収録による中継の有用性

 ビデオ収録による手術現場の中継は、臨場感には欠けるが教育の手段としては有用な方法である。ライブ中継を行う場合にはビデオ収録では得られない利点を検討すべきである。

10 視聴者の条件

 視聴者は、ライブ中継の目的を十分に理解しておかなければならない。ライブ中継のリアリティや臨場感だけを求めるのではなく、術者としての立場で手術手技の妥当性を自問しながら視聴すべきであり、ライブ中継内での術者に対する質問内容やタイミングは節度を守り、術者と患者の双方に配慮しなければならない。不適切な発言を繰り返す視聴者に対しては、術者、司会者、主催者は発言を禁止するか退席を命じなければならない。

11 ライブ中継後の検討会

 ライブ中に発言することが出来なかった質問、意見を討論することが出来る時間をライブ中継後に設け、その教育的目的を達成しなければならない。

12 患者予後の確認と事後評価

 ライブ中継後、一定期間の後に術者または施設責任医師は症例の術後経過を主催した学会、研究会に報告し、またライブ中継内容の妥当性を評価しなければならない。手術に起因した合併症や倫理的配慮などの問題が生じた場合は、その問題点を詳細に検討し、次回の学会、研究会で公表しなければならない。

おわりに

 カテーテルアブレーションのライブ中継は医療従事者の教育を目的として行われるべきものであり、エンターテインメントではないことをすべての関係者が認識しなければならない。また、中継される手術は患者のための医療の一環であることを認識し、治療が最優先されることが大前提となる。さらに、実際の手術経過を収録したビデオを利用した討論の教育的価値は高いと考えられるので、ライブ中継のコンセンサスが得られない場合にはビデオ収録の活用を考慮すべきである。
 カテーテルアブレーションに関するライブ中継ガイドラインは、最新の知識・技術および社会情勢により改訂を要すると考えられる。本委員会はこのガイドラインの運用を実施するとともに経時的に再評価を行う。

日本不整脈心電学会 カテーテルアブレーション委員会

TOP