2017年10月
住友直方(埼玉医科大学国際医療センター小児心臓科)
- Q9ヵ月の男児。胎児期より不整脈を指摘されていた。在胎37週6日、出生時体重2732g、Apgar score 8/9点で出生した。日齢16から不整脈を認めたが、自然に軽快したため、経過を観察されていた。2時間前から突然不機嫌となり、頭部の発汗も認め、救急搬送され、入院した。来院時の心電図を示す。
正しいのはどれか。2つ選べ。 - 1. 心房期外収縮
2. QT延長症候群
3. Brugada症候群
4. 2度房室ブロック
5. 不整脈原性右室心筋症
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【解答】
2、4
【解説】
心電図はHR 63bpm洞調律で、II誘導でQRSの上行脚にP波を認め2:1 房室ブロックである。QT時間は 560msec、QTc(Bazett) 570msec, QTc(Fridericia) 570msec と延長しているために、P波が心室に伝導できず、機能的房室ブロックとなっている。本例はメキシレチン0.5mg/kg/hrの投与を持続していたところ、夜間突然1:1伝導となった。ホルター心電図では図1に示すように交代性T波変化を認めた。後日、DDDペースメーカ植込みを行った。ペースメーカの記録では、torsade de pointesが記録されている(図2)。QT延長症候群には、表1に示す多くの遺伝子型が報告されている。本例で遺伝子検査を行ったが、遺伝子異常は認められなかった。QT延長症候群は表2に示すSchwartz scoreにより診断する。本例では、QTc(Bazett) 570ms、torsade de pointes、交代性T波変化、年齢不相応の徐脈を認め、Schwartz score 5.5点でQT延長症候群の確定診断がつく。乳児期に発生するQT延長症候群は房室ブロックの発生が多い点が、成人期のQT延長症候群と異なる。治療としては、ß遮断薬が主であるが、メキシレチン、ペースメーカ植え込み、植込み型除細動器(ICD)植込みなどが行われる。
表1 QT延長症候群と遺伝子型
サブタイプ 遺伝子座 遺伝子 蛋白 イオン電流 遺伝形式 LQT1 11p15.5 KCNQ1 KV7.1α (KVLQT1) IKs↓ AD LQT2 7q35 KCNH2 KV11.1α (HERG) IKr↓ AD LQT3 3p21 SCN5A NaV1.5α INa↑ AD LQT4 4q25 ANK2 Ankyrin-B INCX↓, INa-K↓ AD LQT5 21q22.1 KCNE1 minKß IKs↓ AD LQT6 21q22.1 KCNE2 MiRP1ß IKr↓ AD LQT7(ATS) 17p23 KCNJ2 Kir2.1α IK1↓ AD LQT8(TS) 12p13.3 CACNA1C CaV 1.2 α1c ICa-L↑ de novo LQT9 3p25 CAV3 Caveolin-3 INa↑ ? LQT10 11q23.3 SCN4B NaV1.5 ß4 INa↑ AD LQT11 7q21 AKAP9 Yotiao IKs↓ AD LQT12 20q11.2 SNTA1 α1-syntrophin INa↑ ? LQT13 11q15.5 KCNJ5 Kir3.4 IK,ACh↓ AD LQT14 14q32.11 CALM1 CaM ICa-L↑ AD LQT15 2p21 CALM2 CaM ICa-L↑ AD JLN1 11p15.5 KCNQ1 KV7.1α Iks↓ AR JLN2 21q22.1 KCNE1 minKß IKs↓ AR AD: 常染色体優性遺伝, de novo:孤発性, AR: 常染色体劣性遺伝, ATS: Andersen-Tawil症候群, TS: Timothy症候群
表2 Schwartz score
心電図所見 点数 A. QTc (Bazett) ≧480 ms 3 460 – 479 ms 2 450 – 459 ms (男) 1 B. 運動負荷4分後の QTc ≥ 480 ms 1 C. torsade de pointes 2 D. 交代性T波変化 1 E. notched T波 1 (3つの誘導) F. 年齢不相応の徐脈 0.5 臨床歴 点数 A. 失神 ストレスに伴う 2 ストレスに伴わない 1 B. 先天性聾 0.5 家族歴 点数 A. 確実なQT延長症候群 1 B. 近い親戚の30才未満の心臓性突然死 0.5 ≧3.5点:可能性大、1.5~3点:疑い、≦1点:可能性小