日本不整脈心電学会

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2017年09月

安部治彦(産業医科大学医学部不整脈先端治療学)

Q67歳、男性。完全房室ブロックで失神発作をきたしペースメーカ植込み治療を受けた(設定はDDDモード、下限レート:50 ppm、上限レート:100 ppm)。ペースメーカ植込み後は、安静時の症状は改善したが、労作時やジョギング中に脈拍結滞と易疲労感があるため受診した。体表面心電図および心内心電図を示す。正しいものはどれか。
1. 心房のセンシング不全がある
2. 心室のペーシング不全がある
3. ペーシング/センシング機能は正常作動である
4. PVARP (Post Ventricular Atrial Refractory Period)を短縮させる必要がある
5. VDDモードに変更すると心電図は正常化する
201709-1
回答と解説はこちらから   

【解答】

【解説】

ペースメーカの基本動作を理解していれば解答できる基本的問題である。DDDモードでは、心室のペーシングレートは上限レート(本症例の場合は100 ppm)で制限されている。そのため、P波のレートがこの上限レート(本症例では100 ppm)を超えた場合には、心室ペーシングレートがP波に徐々に追いつかなくなる現象が見られる。一見、Wenckebach型第2度房室ブロック発生時の心電図(PQ時間が徐々に延長して房室ブロックが発生する)所見と似ていることから、「Pseudo Wenckebach」と呼ばれている。本症例の場合、自己P波レートは約105 bpmとなっており、設定された上限レートを超えているが、心室ペーシングレートの上限は100 ppmに制限されていることから、このような心電図所見となる。上限レートを上げることのみで解決される。心房・心室のセンシング/ペーシングに異常があるわけではなく、PVARPやモード変更とは関係なく見られる現象である。単に経験で上限レートの設定を行うのではなく、運動負荷心電図などで患者個々の日常生活で発生しうるP波レートの上限をあらかじめ把握した上で、ペースメーカ患者の上限レートの設定を行うことが望ましい。

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