一般社団法人 日本不整脈心電学会
理事長 夛田 浩
同 植込み型デバイス委員会 委員長 髙木 雅彦
同 社会問題対策部会 部会長 荻ノ沢 泰司
同 小児・先天性疾患部会 部会長 宮﨑 文

 ペースメーカ腹部植込み小児で、タブレット(タブレット端末・タブレットPC)内臓磁石による強制ペーシング (マグネットレスポンス)の報告がありました1。腹部に接する状態でのタブレット操作が原因です。マグネットレスポンスが記録される機種の出現により発見され、これまで気づかれていなかった事象と推測されます。小児のみならず、成人を含む腹部および前胸部下方にデバイス本体が留置されている全ての患者様に想定される事態です。

1. ダブレットによるマグネットレスポンスについて、どのような事象が発生し、健康被害になる可能性があるのか

 マグネットレスポンスにより、ペースメーカは⾮同期ペーシング(DOO, VOO, AOO)となり、ICDではペーシング機能は変化しないものの、頻拍に対する検出と治療が抑制されます。マグネットレスポンス自体は、プログラマーがない状況下においてマグネットレートにより電池残量を推定したり、⼿術による電気メスなどの電磁⼲渉やノイズによる誤作動などに対して⼀時的に⾮同期ペーシングにするなど頻拍治療を抑制することを目的とした機能です。
 しかし、不適切なマグネットレスポンスは、ペースメーカにおいては⾮同期ペーシングによる動悸などの⾃覚症状や、受攻期ペーシングによる⼼房細動や⼼室細動の誘発、ICDにおいては致死性不整脈に対する治療が抑制される可能性があります。また、頻回のマグネットレスポンスは電池の早期消耗をきたすおそれがあります。ただし、現時点で携帯電話やタブレットのマグネットレスポンスで死亡した報告はありません。ICDの多くはマグネットレスポンスを知らせるアラート音が鳴りますが、鳴らない機種も存在します。また、マグネットレスポンスの発生が記録されない機種も存在するため、より多くの腹部および前胸部下方植込みデバイスの症例で同様の事象が発生している可能性があります。

2. ダブレットによるマグネットモードを含む電磁干渉を回避するための対策

 デバイスからの安全距離の確保が最も重要です。タブレットには内蔵磁石以外にも携帯電話回線が搭載されているものがあり、携帯の電波による干渉も考慮する必要があります。タブレットの外観からは携帯電話回線搭載の有無を判断することは困難です。総務省からは携帯回線による電磁干渉を防ぐため、デバイスから携帯電話を15cm離すように勧告がなされています2。実験的にはタブレットの内蔵磁石がデバイスに影響を与える距離は15cmより十分短いことが示唆されていますが、タブレットは機種によって安全距離が異なる可能性があるため、各タブレットの取扱説明書・安全情報を参照してください。
 タブレットによる電磁干渉を回避するため、下記の指導をお願いします。

  • タブレットをデバイス及び体表面から離して操作すること
  • 隔離距離は各タブレットによっても安全距離が変わる可能性があるため、各タブレットの取扱説明書・ホームページで提供されている安全情報をまず参照し、明確な記載がない場合は15cmとすること

3. ダブレットによる電磁干渉が発生した場合の対処方法

 安全距離の確保が難しいなどの理由で不適切なマグネットレスポンスが避けがたい場合には、マグネットレスポンスをオフにすることを考慮してください。マグネットレスポンスをオフにすることで非同期ペーシングやICD治療の保留を回避できます。ただし、プログラマーのない状況下において、マグネットレートによる電池電圧の推測、⼿術など電磁⼲渉が生じうる際に磁石を用いた⾮同期ペーシング・頻拍検出オフができなくなることに注意が必要です。
 なお、マグネットレスポンスがオフにできない機種もあり、患者の病態と各機種の機能に応じた適切な対応が必要です。各メーカの現行機種に関する情報は下記のリンクを参照してください。

【参考文献】

  1. 往田有理、他 タブレット端末により腹部植込みペースメーカに発生したマグネットレスポンスに関する検討 心電図 2024 ;44(3): 180-188.
  2. 携帯電話端末の電波の植込み型医療機器への影響に関する調査レポート(2023 年3月). 総務省総合通信基盤局電波部電波環境課.
    https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/ele/medical/r4_appx_1_2.pdf