2018年7月
丸山徹(九州大学キャンパスライフ・健康支援センター)
- Q58歳の女性。母親の死後これまで経験したことのない胸痛を自覚するようになったため来院した。高血圧・糖尿病・脂質異常症はなく喫煙歴もない。胸痛は持続的で寛解しないため精査入院となった。入院時(上)と退院時(下)の心電図を示す。正しい診断はどれか。
- a. 急性心内膜下梗塞
b. 労作性狭心症
c. たこつぼ心筋症
d. くも膜下出血
e. 肥大型心筋症
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【解答】
c
【解説】
入院時の心電図は正常洞調律で、STレベルはV2・V3で軽度上昇しV5では低下している。またI・Ⅱ・aVF誘導とV3~V6誘導でT波は陰性化し、特にV3~V6誘導では巨大陰性T波(左右対称的な陰性T波で深さが1.0 mV以上)を認める。QT時間は0.48秒(心拍補正QT時間は0.52秒)と延長している。しかし、退院時の心電図でこれらは消失し、QT時間も正常化している。たこつぼ心筋症の心電図はST-T所見が急性心内膜下梗塞や異型狭心症に類似するが、異常Q波を形成することは稀である。巨大陰性T波は肥大型心筋症・急性心内膜下梗塞やくも膜下出血でも認められるが、本例は冠危険因子がなく、病歴からくも膜下出血も否定的である。たこつぼ心筋症は中年以降の女性に多く、精神的・身体的なストレスが誘因となり、多くは可逆的である。その発生には、カテコラミンの過剰産生や微小血管レベルの冠攣縮が示唆されている。診断には病歴聴取や心電図とならんで、心エコーや心臓カテーテル検査も重要である。
〔日本不整脈心電学会編:「実力心電図―「読める」のその先へ-」日本不整脈心電学会、東京、2018;324~325を参照〕