昨年より、本邦においても心房細動に対する新しい治療法であるパルスフィールドアブレーション(PFA)が導入され、多くの施設で実施されております。この度、日本不整脈心電学会では、理事およびカテーテルアブレーション委員会委員が所属する高度な専門性を有する施設(約30施設)に協力いただき、現状把握のための内部調査を実施いたしました。本調査は、空気塞栓症を含む合併症や、オフラベルユースによる合併症発生に関する情報が寄せられたことを受けて行ったものです。
 調査の結果、塞栓症および冠動脈攣縮症の発生(一過性の軽症のものを含む)が、稀ではあるものの当初の想定を上回る頻度で報告されていることが判明いたしました。これらは、重大な結果をもたらしうる、注意すべき合併症です。

【塞栓症について】

 今回の内部調査では、空気塞栓症と脳梗塞の報告が寄せられました。
 空気塞栓症については、吸気時にカテーテルを入れ替える際、シースの弁が開き空気が引き込まれることにより命に関わる重症例が発生する可能性があります。これを予防するために、以下の点にご留意ください。

  • 呼吸管理の徹底
  • 不要なカテーテルの出し入れの回避
  • 十分なフラッシュの実施

 クライオアブレーションと同様に、太径のガイディングシースおよびカテーテルを使用するPFAもあるため、塞栓症のリスクが高まります。各施設におかれましては、改めて細心の注意を払われますようお願いします。
 脳梗塞に関しましては、米国においてVARIPULSE ®の適応外使用から脳梗塞例の報告がありました。このため、Heart Rhythm Society (HRS)からも注意喚起が出され、使用説明書に記載の適応に従って使用することが推奨されています(*)。内部調査でも脳梗塞の報告が確認されておりますので、本邦においても各PFA機器の添付文書に則った適正使用をお願いいたします。

* https://www.hrsonline.org/guidance/safety-alerts/biosense-webster-advisory-varipulse-instructions?utm_source=informz&utm_medium=email&utm_campaign=guidance&utm_content=safety_alert_32625

【冠動脈攣縮症について】

 冠動脈攣縮症の症例も複数確認されました。特に、三尖弁輪峡部および僧帽弁輪峡部に対するPFAは冠動脈攣縮のリスクが高いと考えられますが、これらは適応部位外使用に該当いたします。適応外使用において合併症が発生した場合、患者様の不利益となるばかりでなく、今後の医療機器の承認プロセスにも悪影響を及ぼす懸念があります。したがいまして、本学会としては、これらの部位へのPFA施行は基本的には推奨いたしません。

 各施設におかれましては、本注意喚起の内容をご確認いただき、安全な治療の実施にご協力くださいますよう、また合併症が起きた際にはJ-ABを通した合併症報告を徹底いただきますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

 日本不整脈心電学会
カテーテルアブレーション委員会 委員長 井上耕一
同 合併症調査部会 部会長 向井 靖
医療安全委員会 委員長 清水 渉
理事長 夛田 浩