日本不整脈心電学会

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Extra-vascular ICD(EV-ICD)の適応・施設要件・術者要件に関するステートメント

2025年2月28日

⼀般社団法⼈ ⽇本不整脈⼼電学会
ステートメントワーキンググループ
グループ長 栗田隆志
理事⻑ 夛田 浩

 植込み型除細動器(ICD)は、致死的頻脈性不整脈による心臓突然死を予防し、生命予後を改善する確立された治療法の1 つである。現在では、突然死二次予防のみならず、一次予防のための標準的治療となっている。ICDは1996 年に保険適用となり、それ以降、医科工学の進歩にともない本体の小型化及び多機能化が進んだ。一方、システムとしては経静脈リードを使用するtransvenous ICD (TV-ICD) が主流であったが、気胸やリードによる穿孔など植込み時のリスクに加えて、リードの不具合や感染症などに伴うリード抜去時の合併症の問題があった。このようなTV-ICDシステムの潜在的なデメリットを回避する新しいICDシステムである完全皮下植込み型除細動器:sub-cutaneous ICD (S-ICD)の保険適用が2016年に本邦でも認められ、広く使用されている。このシステムでは血管外のリードを用いることによる従来の潜在的デメリットを回避できるが、抗頻拍ペーシング機能がないという問題がある。近年、胸骨下リードを使用する血管外ICDシステム:extravascular ICD (EV-ICD)の治験結果が発表され、本邦においてもこのたび臨床で植込まれる状況になった。TV-ICD、S-ICD、EV-ICDそれぞれの特徴を表1に記載した。EV-ICDはより少ない除細動エネルギーを使用した小型の機器であり、単一の機器で抗頻拍ペーシング、バックアップ心停止ペーシングといった追加機能を有している。そのため、胸骨切開手術後や恒久的なペーシング、CRTへのアップグレードが必要な患者を除いたICD適応患者の中で、静脈アクセスが困難な場合や感染のリスクが高い症例、若年者などで、かつ一時的な徐脈やVTに対する抗頻拍ペーシングが必要な場合において、検討されるべき機器と考えられる。また、これまで開胸術での植込みを余儀なくされてきた小柄な患者においても、EV-ICDはより低侵襲な治療選択肢の一つになることが期待される。

表1

TV-ICD S-ICD EV-ICD
リード留置部位血管内(心内)皮下(胸骨上)血菅外(胸骨下)
デバイス重量/容積69〜84g/30〜33cc130g/59cc77g/33cc
予測寿命11-13年7.3年11.7年
除細動治療(最大出力)○ (40J)○ (80J)○ (40J)
30秒間のショック後ペーシング
抗頻拍ペーシング治療×
一時的心停止サポートペーシング×
恒常的心房徐脈ペーシング××
恒常的心室徐脈ペーシング××
静脈温存効果
(一部閉塞や狭窄あり)
胸骨切開後の使用×
術前心電区スクリーニング検査不要必要不要
植込み時の透視必要不要必要

 今後、植込み術数が増加することが予測されるが、患者の安全性担保のために、日本不整脈心電学会としては、施設・術者の資格要件につき、以下を提示する。

施設基準
  • 循環器科又は小児循環器科及び心臓血管外科を標榜している病院であること。*1
    上記については「循環器科+心臓血管外科」、又は「小児循環器科+心臓血管外科」を最小限の組み合わせとする。
  • 心臓電気生理学的検査を年間50例以上実施していること。なお、このうち5例以上は心室性頻拍性不整脈症例に対するものであること。*1
  • 開心術又は冠動脈、大動脈バイパス移植術を合わせて年間30例以上実施しており、かつ、ペースメーカ移植術を年間10例以上又は常勤の循環器科の医師が2名以上配置されていない施設では心筋電極によるペースメーカ移植術を3年間に3例以上実施していること。
  • 常勤の循環器科又は小児循環器科及び心臓血管外科の医師がそれぞれ2名以上配置されており、そのうち2名以上は日本不整脈心電学会が定めるICDの所定の研修(ICD/CRT合同研修セミナー)を修了していること。
  • 常勤の臨床工学技士が1名以上配置されていること。
  • 植込み型心臓不整脈デバイス認定士が配置されていることが望ましい。
  • 当該手術を行うために必要な次に掲げる検査等が、当該保険医療機関内で常時実施できるよう、必要な機器を備えていること。*1
    ア 血液学的検査
    イ 生化学的検査
    ウ 画像診断
術者基準
  • 上記施設において、企業が定めるEV-ICDの研修*2 を修了した医師(循環器科又は小児循環器科及び心臓血管外科)が植込みを実施すること。
  • トレーナー*2の医師の指導下で、少なくとも最初の2例は植込みを実施すること。
  • 上記を含む少なくとも最初の5例は、企業が定めるEV-ICDの研修*2を修了した心臓血管外科医師の指導下で植込みを実施すること。
  • 常勤の循環器科の医師が2名以上配置されていない施設においては、上記最初の5例後も、企業が定めるEV-ICDの施術者としての研修*2を修了した心臓血管外科医師の指導下で植込みを実施すること(常勤の循環器科の医師に小児循環器科の医師は含まれない)。

*1 「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(保医発0305第2号 平成26年3月5日)」 第67 植込型除細動器移植術、植込型除細動器交換術及び経静脈電極抜去術(レーザーシースを用いるもの)に関わる施設基準に準ずる
※施設基準が変更となった場合は要検討

*2 JHRSの承認を得た内容

 本ステートメントは、令和7年2月28⽇から運⽤開始されるが、国内外での臨床成績の蓄積により今後改訂する可能性がある。

EV-ICDステートメントワーキンググループ
栗田隆志、三橋武司、髙木雅彦、草野研吾、野田 崇、今井克彦
西井伸洋、石橋耕平、宮崎 文、堺 美郎、清水 渉

※「心電学関連春季大会2025」の前日(4月25日)に同会場で開催されます。是非ご参加ください。

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