DDD型デュアルチャンバーリードレスペースメーカの 適応・施設要件・術者要件に関するステートメント(改訂)
2025年2月10日
⼀般社団法⼈ ⽇本不整脈⼼電学会
ステートメント改訂ワーキンググループ
グループ長 髙木雅彦
理事⻑ 夛田 浩
従来のリードレスペースメーカ(LP)は、VVI(R)型あるいはVDD型であり、経静脈ペースメーカでは静脈アクセス等の関係で留置困難例や感染リスクが高い症例などに対して使⽤される。この度、心房にもLPを留置し、心房ペーシングが可能となるDDD型デュアルチャンバーLPが本邦でも臨床で植込まれる状況になったことを鑑み、今回 LP に関するステートメント改訂を行った。
1. DDD型デュアルチャンバーLPの特徴
海外では、2023 年に デュアルチャンバーLP(Aveir DR)が上市されて以降、現在(2024年8月)までに1,000 件以上の植込み⼿術が施⾏されている。植込み時急性期の治療成績として成功率98.3%、植込み後3ヶ月までの合併症率9.7% (心嚢液貯留0.7%)と報告されている。1
その⼀⽅で、心房用のLPは心室用LPと比して小型であり、予測電池寿命も4-6年(HR60ppm 2.5V 100%の場合)と従来の経静脈デュアルチャンバーペースメーカよりも短く、心室用LPの約半分程度である。また、安全性(櫛状組織の偏在性)や心房心室同期率の観点から、心房内への留置可能場所が右心耳基部に限定される。そのため、複数の心房用LPの留置については評価に耐える十分な経験やエビデンスはない。既存の心房用LPの慢性期抜去についての安全性は、現時点で十分なエビデンスがなく(最長396日)、電池寿命後に新規のシングルチャンバ・ペースメーカを追加する場合に、専用の抜去用リトリーバルカテーテルを使用してLP抜去を行うことは推奨されていない。2
また、独自の新しい通信システム(i2i)による心房心室同期率は、安静時の検討では96.5-98%と良好であるが、心房心室に植込まれたLPの位置関係や体位、運動時等により変化することが考えられ、十分な心房心室同期率を達成し得ない可能性などを含めて、長期使用におけるエビデンスは十分ではない。
2. DDD型デュアルチャンバーLPの植込み適応
国内における LP 植込み適応に関しては、JCS/JHRS「不整脈⾮薬物治療ガイドライン 2018 年改訂版」3「2021 年フォーカスアップデート版不整脈⾮薬物治療」4「2024年フォーカスアップデート版不整脈治療」5を参照されたい。
心房用LPは、上記のごとく予測電池寿命が従来の経静脈DDD型デュアルチャンバーペースメーカよりも短く、心房内への複数の留置および既存の心房用LPの慢性期抜去が本ステートメント発表時点では推奨されないため、予測電池寿命を超えて長期の留置が必要な症例に対する本デュアルチャンバーLPの適応は慎重に考慮すべきである。また、特に房室伝導障害を有する患者への適応については、従来型の経静脈ペースメーカでは心房心室の電極が物理的に接続されていたものがi2i通信に置き換わることで、心房心室同期が十分に担保されない条件が発生する可能性にも十分に考慮すべきである。
3. DDD型デュアルチャンバーLP 植込み・抜去⼿術実施施設要件
「リードレスペースメーカの施設要件・術者要件に関するステートメント(2023年3月改訂版)」6に準じるが、植込み型心臓不整脈デバイス認定士が配置されていることが望ましく、この内容を追加した。
3. DDD型デュアルチャンバーLP 植込み・抜去⼿術術者要件
「リードレスペースメーカの施設要件・術者要件に関するステートメント(2023年3月改訂版)」6に準じる。
4. その他
LP 植込み⼿術および抜去⼿術に関して、術中術後の重篤な合併症(⼼タンポナーデ、脱落、その他)が発⽣した場合、あるいは原因の如何に関わらず術後1ヶ月以内に死亡した場合は、速やかに⽇本不整脈⼼電学会**に報告書を提出すること。
**本学会ホームページ「申請/報告」から、「リードレスペースメーカ合併症発⽣時の報告」にある専⽤フォーマットを使⽤のこと(https://new.jhrs.or.jp/various-applications/various-applications2/safetyinfo20190611/) (2025年1⽉30⽇閲覧)
本ステートメントは、令和7年2月10⽇から運⽤開始されるが、国内外での臨床成績の蓄積により今後改訂する可能性がある。
参考:日本不整脈心電学会「リードレスペースメーカ植込み術および抜去術に関する施設要件、術者要件」より一部改訂
○施設に求められる要件
植込み術に求められる施設要件
- ペースメーカ移植術およびペースメーカ交換術の施設基準を満たし、交換を含む⼿術を常勤医が年間 10 例以上実施していること
- 緊急⼼臓⾎管⼿術が⾃施設で可能な体制を有していること
- ⼼臓⾎管外科専⾨医が常勤していること
- 植込み型心臓不整脈デバイス認定士が配置されていることが望ましい
ただし、やむを得ず⼼臓⾎管外科が併設されていない施設、あるいは心臓血管外科専門医がいない施設で植込む場合には、本学会に以下の情報を事前申請する。毎年3~4月に必ず確認申請書をメールで本学会事務局まで送付のこと
① 連携医療施設と⼼臓⾎管外科専⾨医の責任者名(依頼施設管理者(病院長)承諾書および連携施設管理者(病院長)承諾書を含む)
② 連携医療施設での緊急外科対応ができる曜⽇と時間帯
③ どのような場合に、どのような⼿順で⼼臓⾎管外科へ連絡するか
④ 搬送⽅法、推定搬送時間および搬送先病院の開胸⼿術に必要な⼿術機器、⼿術室、⿇酔科医、臨床⼯学技⼠、看護⼠、⼈⼯⼼肺などの準備体制
抜去手術に求められる施設要件
- ペースメーカ移植術およびペースメーカ交換術の施設基準を満たし、交換を含む⼿術を常勤医が年間 10 例以上実施していること
- 緊急⼼臓⾎管⼿術が⾃施設で可能な体制を有していること
- 植込み型心臓不整脈デバイス認定士が配置されていることが望ましい
※リードレスペースメーカ抜去術を行うためには、緊急⼼臓⾎管⼿術が⾃施設で可能な体制を有している必要がある
○術者(医師)に求められる要件
- 不整脈デバイス治療に関する⼗分な専⾨的知識と植込み手術経験を有していること
(不整脈専⾨医資格を有していることが望ましい) - 関連学会監修の製造販売業者が実施する研修を受講済であること
【参考文献】
- Knops RE, et al. A Dual-Chamber Leadless Pacemaker. N Engl J Med 2023 Jun 22;388(25):2360-2370. doi: 10.1056/NEJMoa2300080. Epub 2023 May 20 https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2300080(2025年1⽉30⽇閲覧)
- ⽇本不整脈⼼電学会「リードレスペースメーカ(LP)経静脈抜去術の運用について」https://new.jhrs.or.jp/pdf/guideline/statement202301_01.pdf(2025年1⽉30⽇閲覧)
- 栗⽥隆志、他 ⽇本循環器学会/⽇本不整脈⼼電学会「不整脈⾮薬物治療ガイドライン(2018 年改訂版)」https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2025年1⽉30⽇閲覧)
- 栗⽥隆志、他 ⽇本循環器学会/⽇本不整脈⼼電学会「2021 年 JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版 不整脈⾮薬物治療」https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2025年1⽉30⽇閲覧)
- 岩﨑雄樹、他 ⽇本循環器学会/⽇本不整脈⼼電学会「2024 年 JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版 不整脈治療」https://www.j-circ.or.jp/guideline/guideline-series/(2025年1⽉30⽇閲覧)
- ⽇本不整脈⼼電学会「リードレスペースメーカの施設要件・術者要件に関するステートメント(改訂)」https://new.jhrs.or.jp/pdf/guideline/statement202301_01.pdf(2025年1⽉30⽇閲覧)
リードレスペースメーカ ステートメント改訂ワーキンググループ
髙木雅彦、野田 崇、成田裕司、今井克彦
福田浩二、石橋耕平、清水 渉、夛田 浩