リード抜去手術に関するステートメント (2023年改訂)
1. ステートメント公表の背景
ペースメーカなどの不整脈デバイス治療の手術件数は全国で年間6万件以上が行われており、デバイス治療に関連した合併症も散見され、特に感染を合併した際にはリードを含めたすべての異物除去が必須であることは広く認知されている。一定期間の留置を経たリードは、単純牽引での抜去は困難なため、専用のリードマネージメント製品やデバイスによる補助が必要である。2010年8月にレーザーシースを用いたリード抜去術が保険収載された後は経静脈リード抜去術が日本においても普及し、後に様々なリードマネージメント関連製品(リードロッキングデバイス、リード抜去用シース、スネア、止血用バルーンカテーテルなど)が承認された。現時点では医療技術や医療機器の進歩に即したリードマネジメント医療の広がりと地域医療の充実をはかる必要があること、また本学会のリード抜去手術登録制度(J-LEX)により臨床成績や合併症をモニタリングできる体制が整ったこともあり、リード抜去手術に関するステートメントの改訂を行った。
また、2020年改訂版では「指導医」「院内指導医」の認定要件・更新要件を本ステートメント内に定義したが、これは日本においてリード抜去手術の指導体制が整っていないこと、J-LEXへの症例登録を推進させることを考慮しての措置であった。現時点では、国内年間実施症例1,000例以上、手術実施施設100施設以上、認定術者250名以上、指導医10名以上、院内指導医20名以上のように体制が整ったため、今後はリード抜去手術用デバイス(GlideLight、Evolution)の製造販売業者(Philips社、Cook Medical社)が、経験、技術、指導力、倫理性、地域性などを参考にして指導医を依頼するという本来の形式に転換し、本ステートメントの指導医・院内指導医の認定・更新要件は削除する。
2. リード抜去術を行う術者(医師)、施設に求められる要件
前述のごとくリード抜去用医療機器の使用にかかわらず経静脈リード抜去は危険を伴う侵襲的な手技であり、上大静脈などの損傷や心穿孔に伴う大出血などがこれに含まれる。こうした合併症の発生に備えて止血用バルーンカテーテルを術中直ちに使用できる準備が推奨され、また開胸術をはじめとする外科的緊急処置が可能な体制は必須である。
術者に求められる要件は、不整脈デバイス治療に対する十分な経験と技術に加え、経静脈リード抜去に対する専門的な知識(適応、抜去術の様々な手法に関する知識、起こり得る合併症と対策、抜去できなった場合の対応など)が求められる。術者は循環器専門医・小児循環器専門医または心臓血管外科専門医の資格を有し、かつ実際の使用に先立って製造販売業者が行うトレーニング等を受講する必要がある。
施設に求められる要件は、循環器専門医または小児循環器専門医、かつ、心臓血管外科専門医が常勤し、内科系および外科系医師が十分な連携を取りながら、設備および各種委員会が整備されていることが求められる。ただし、常勤医が本基準の研修中である場合には、特例として十分な経験を積んだ指導医が参加することにより施行可能とする。この手術実施例については別途本学会への報告を必要とする。
また、2018年より本学会のリード抜去手術登録制度(J-LEX)が開始され、日本におけるリード抜去手術の現状(臨床成績、合併症など)をモニタリングできる体制が整えられた。今後、術者および施設に関連する申請に必要な症例数はJ-LEX登録件数を基準にする。
レーザーシース(GlideLight)、追加機能を有するメカニカルシース(Evolution)などのpowered sheathを用いた経静脈リード抜去機器の術者・施設基準として以下を設ける。
【術者(医師)に求められる要件】
(1)循環器専門医または小児循環器専門医または心臓血管外科専門医を有し、かつ各社が定めるトレーニングプログラムを修了すること。
(2)トレーニングプログラムには、指導医の手技を2例以上見学し、かつ指導医の立ち合いの下で2例以上の手技を行うこと.症例数はJ-LEX登録件数を基準にする。
(3)ただし、すでにpowered sheathで十分なリード抜去経験を積んでいる医師に関しては(注)、他機種のpowered sheath術者要件取得における指導医の手技見学、指導医立ち会いの手技実施を省略できる。
注:20例以上を推奨する
【施設に求められる要件】
(1)循環器専門医または小児循環器専門医の常勤医1名以上、かつ、心臓血管外科専門医の常勤医1名以上を必要とし、両者が十分な連携をとりながら(術前症例検討会などによる情報共有が必須)、緊急時には開胸手術などの迅速な対応が得られる体制を構築する。
(2)植込み型除細動器移植術の施設基準に適合した施設(ICD認定施設)であること。
(3)抜去機器に関する所定のトレーニングプログラムによる研修を修了した医師が、1名以上常勤である注。
(4)施設に必要な装備等に関しては、各社が定めたトレーニングプログラムにおいて推奨される要件に準ずる。
(5)院内に倫理委員会、リスクマネージメント委員会、感染対策委員会が設置されており、必要に応じて各委員会に症例を諮り、適応や合併症について検討することができる施設である。
(6)緊急時に出血性合併症への対応、外科的リード抜去手術、三尖弁形成術・置換術などの心臓外科手術を迅速に行うことができる施設である。
(7)J-LEX登録制度に参加している。
注:ただし、常勤医師が同基準の研修中である場合には、非常勤医師(指導医)1名が参加すれば、例外的に施行可能とする。その場合、例外的処置を行なった理由と術後経過を記した報告書を学会事務局に提出することが条件である。
3. リードロッキングデバイスキットの単独使用に関して
リードロッキングデバイスの単体使用によるリード抜去に関しては、以前にも警告を行っている。リードロッキングデバイスは単体で薬事承認されているが、「ロッキングデバイスの単体使用に関する要件」(ニュースレター27-2号:平成23年4月25日発行より抜粋)に抵触する。日本不整脈心電学会からの一連の公告は厚生労働省の指示によるものであり、リードロッキングデバイスは単独で使用するものではなく、原則としてリード抜去用の各種シースと併せて使用するように注意が必要である(ただし、各種シースと各リードロッキングデバイスの組み合わせに制限はない)。
4. その他
術者(医師)、施設に求められる要件、トレーニング制度、指導医、院内指導医に関しては、当該手技の今後の実施状況と結果を鑑みて適宜更新されるべきである。また、経静脈的リード抜去の適応は、2017年HRS/AHA Consensus1)、「2021年 JCS/JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療(日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン)」2)に示されており、これらの適応に準じて行わなければならない。
参考文献
1)Kusumoto FM, Schoenfeld MH, Wilkoff BL, et al. 2017 HRS expert consensus statement on cardiovascular implantable electronic device lead management and extraction. Heart Rhythm. 2017.
2)2021年 JCS/JHRS ガイドライン フォーカスアップデート版 不整脈非薬物治療
(日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kurita_Nogami.pdf