日本不整脈心電学会

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リード抜去手術に関するステートメント (2020年改訂)

1. ステートメント公表の背景

 ペースメーカなどの不整脈デバイス治療の手術件数は全国で年間6万件以上が行われており、デバイス治療に関連した合併症も散見され、特に感染を合併した際にはリードを含めたすべての異物除去が必須であることは広く認知されている。一定期間の留置を経たリードは、単純牽引での抜去は困難なため、専用のリードマネージメント製品やデバイスによる補助が必要である。2010年8月にレーザーシースを用いたリード抜去術が保険収載された後は経静脈リード抜去術が日本においても普及し、後に様々なリードマネージメント関連製品(リードロッキングデバイス、リード抜去用シース、スネア、止血用バルーンカテーテルなど)が承認された。現時点では医療技術や医療機器の進歩に即したリードマネジメント医療の広がりと地域医療の充実をはかる必要があること、また本学会のリード抜去手術登録制度(J-LEX)により臨床成績や合併症をモニタリングできる体制が整ったこともあり、リード抜去手術に関するステートメントの改訂を行った。

2. リード抜去術を行う術者(医師)、施設に求められる要件

 前述のごとくリード抜去用医療機器の使用にかかわらず経静脈リード抜去は危険を伴う侵襲的な手技であり、上大静脈などの損傷や心穿孔に伴う大出血などがこれに含まれる。こうした合併症の発生に備えて止血用バルーンカテーテルを術中直ちに使用できる準備が推奨され、また開胸術をはじめとする外科的緊急処置が可能な体制は必須である。
 術者に求められる要件は、不整脈デバイス治療に対する十分な経験と技術に加え、経静脈リード抜去に対する専門的な知識(適応、抜去術の様々な手法に関する知識、起こり得る合併症と対策、抜去できなった場合の対応など)が求められる。術者は循環器専門医・小児循環器専門医または心臓血管外科専門医の資格を有し、かつ実際の使用に先立って製造販売業者が行うトレーニング等を受講する必要がある。
 施設に求められる要件は、循環器専門医または小児循環器専門医、かつ、心臓血管外科専門医が常勤し、内科系および外科系医師が十分な連携を取りながら、設備および各種委員会が整備されていることが求められる。ただし、常勤医が本基準の研修中である場合には、特例として十分な経験を積んだ指導医注1が参加することにより施行可能とする。この手術実施例については別途本学会への報告を必要とする。
 また、2018年より本学会のリード抜去手術登録制度(J-LEX)が開始され、日本におけるリード抜去手術の現状(臨床成績、合併症など)をモニタリングできる体制が整えられた。今後、術者要件、指導医資格などの申請に必要な症例数はJ-LEX登録件数を基準にする。
 レーザーシースを含むpowered sheath注2を用いた経静脈リード抜去機器の術者・施設基準として以下のものを設ける。

注1:「認定医」「指導医」「院内指導医」については、3.に記す。

注2:特に追加機能を有さない(マニュアル)シース以外.レーザーシース、Evolution、TightRail(現時点で未承認)など.

【術者(医師)に求められる要件】

(1)循環器専門医または小児循環器専門医または心臓血管外科専門医を有し、かつ各社が定めるトレーニングプログラムを修了すること.

(2)トレーニングプログラムには、指導医の手技を2例以上見学し、かつ指導医の立ち合いの下で2例以上の手技を行うこと.症例数はJ-LEX登録件数を基準にする.

(3)ただし、すでにpowered sheathで十分なリード抜去経験を積んでいる医師に関しては、他機種のpowered sheath術者要件取得における指導医の手技見学、指導医立ち会いの手技実施を省略できる.

【施設に求められる要件】

(1)循環器専門医または小児循環器専門医の常勤医1名以上、かつ、心臓血管外科専門医の常勤医1名以上を必要とし、両者が十分な連携をとりながら緊急時に開胸手術などの迅速な対応が得られる体制を構築すること.

(2)植込み型除細動器移植術の施設基準に適合した施設(ICD認定施設)であること.

(3)抜去機器に関する所定のトレーニングプログラム(特にpowered sheathを用いる場合)による研修を修了した医師が、1名以上常勤であること注3

(4)施設に必要な装備等に関しては、各社が定めたトレーニングプログラムにおいて推奨される要件に準ずること.

(5)院内に倫理委員会、リスクマネージメント委員会、感染対策委員会が設置されており、必要に応じて各委員会に症例を諮り、適応や合併症について検討することができる施設であること.

(6)緊急時に心臓外科手術の迅速な対応が得られる施設であること.

(7)J-LEX登録制度に参加していること.

注3:ただし、常勤医師が術者基準を満たさなくとも、常勤医が同基準の研修中である場合には、非常勤医師(指導医)1名が参加すれば、施行可能とする。その場合、本基準は例外的なものであることから、例外的処置を行なった理由と術後経過を記した報告書を学会事務局に提出することを条件とする。

3. 認定医要件、指導医認定要件及び指導医更新要件、院内指導医認定要件及び院内指導医更新要件

認定医要件

GlideLight Evolution RL

下記1~3の要件を満たすこと

(1)トレーニングレクチャーを受講済みであること

(2)指導医または院内指導医の手技を2例以上見学すること

(3)指導医または院内指導医の立ち会いのもと手技を2例以上実施すること

※ただし、Evolution RLを用いた20例以上の手技経験をもつ医師に関しては上記2,3を省略することができる

下記1~3の要件を満たすこと

(1)トレーニングレクチャーを受講済みであること

(2)指導医または院内指導医の手技を2例以上見学すること

(3)指導医または院内指導医の立ち会いのもと手技を2例以上実施すること

※ただし、GlideLightを用いた20例以上の手技経験をもつ医師に関しては上記2,3を省略することができる

指導医認定要件

GlideLight Evolution RL

下記の要件のいずれかを満たすこと

(1)GlideLightを用いた手技を累計30例以上経験し、その内の20例は直近1年以内に実施していること

(2)Evolution RLの指導医資格を有し、GlideLight手技経験数が直近1年間10例以上であること

(3)Evolution RLの認定医資格を有し、GlideLight手技経験数が直近1年間20例以上であること

下記の要件のいずれかを満たすこと

(1)Evolution RLを用いた手技を累計30例以上経験し、その内の20例は直近1年以内に実施していること

(2)GlideLightの指導医資格を有し、Evolution RL手技経験数が直近1年間10例以上であること

(3)GlideLightの認定医資格を有し、Evolution RL手技経験数が直近1年間20例以上であること

製造販売業者と指導医契約を結び、指導医資格取得後、1年毎に更新手続きが必要。

指導医更新要件

GlideLight Evolution RL

GlideLight手技実施数が直近1年間20例以上であること

※Evolution RLの指導医資格も有する場合、直近1年間の両製品の合計手技実施数が20例以上あり、その内、GlideLightの手技数が10例以上であればGlideLightの指導医資格を更新できる

Evolution RL手技実施数が直近1年間20例以上であること

※GlideLightの指導医資格も有する場合、直近1年間の両製品の合計手技実施数が20例以上あり、その内、Evolution RLの手技実施数が10例以上であればEvolution RLの指導医資格を更新できる

直近1年間の両製品の使用症例数が5例以上19例以下であった場合、指導医契約を更新することはできないが、院内指導医として契約を結ぶことができる。

院内指導医認定要件

GlideLight Evolution RL

下記いずれかの要件を満たすこと

(1)GlideLightを用いた手技を累計30例以上経験し、その内の5例は直近1年以内に実施していること

(2)Evolution RLの院内指導医資格を有し、GlideLight手技経験数が直近1年間5例以上であること

下記いずれかの要件を満たすこと

(1)Evolution RLを用いた手技を累計30例以上経験し、その内の5例は直近1年以内に実施していること

(2)GlideLightの院内指導医資格を有し、Evolution RL 手技経験数が直近1年間5例以上であること

製造販売業者と院内指導医契約を結び、院内指導医資格取得後、1年毎に更新手続きが必要。

院内指導医更新要件

GlideLight Evolution RL
GlideLight手技実施数が直近1年間5例以上であること Evolution RL手技実施数が直近1年間5例以上であること

4. リードロッキングデバイスキットの単独使用に関して

 リードロッキングデバイスの単体使用によるリード抜去に関しては、以前にも警告を行っている。リードロッキングデバイスは単体で薬事承認されているが、「ロッキングデバイスの単体使用に関する要件」(ニュースレター27-2号:平成23年4月25日発行より抜粋)に抵触する。日本不整脈心電学会からの一連の公告は厚生労働省の指示によるものであり、リードロッキングデバイスは単独で使用するものではなく、原則としてリード抜去用の各種シースと併せて使用するように注意が必要である(ただし、各種シースと各リードロッキングデバイスの組み合わせに制限はない)。

5. その他

 術者(医師)、施設に求められる要件、トレーニング制度、指導医、院内指導医に関しては、当該手技の今後の実施状況と結果を鑑みて適宜更新されるべきである。また、経静脈的リード抜去の適応は2017年HRS/AHA Consensus1)および日本循環器学会/日本不整脈心電学会「不整脈非薬物治療ガイドライン2018年改訂版」2)に示されており、これらの適応に準じて行わなければならない。

参考文献

1)Kusumoto FM, Schoenfeld MH, Wilkoff BL, et al. 2017 HRS expert consensus statement on cardiovascular implantable electronic device lead management and extraction. Heart Rhythm. 2017.

2)日本循環器学会/日本不整脈心電学会「不整脈非薬物治療ガイドライン2018年改訂版」(班長:栗田隆志、野上昭彦)
http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2018_kurita_nogami.pdf

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