日本不整脈心電学会

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出張カテーテルアブレーションを施行する際に求められる要件に関するステートメント

ステートメント公表の背景

本邦では、年間10万例以上のカテーテルアブレーションが施行されています。日本不整脈心電学会主催のレジストリであるカテーテルアブレーション全国症例登録研究(J-ABレジストリ)に参加している施設数も550施設を超え、全国に広く普及するに至りました。
以前はカテーテルアブレーションが十分に普及しておらず術者の数も不足していたため、治療を行うことができない地域も多くありました。そのため、いわゆる「出張カテーテルアブレーション」が施行されていました。カテーテルアブレーションが必要な患者に治療を届ける意味において、また、カテーテルアブレーションの教育と普及において、出張カテーテルアブレーションが国民の健康に貢献したことは間違いありません。しかし、カテーテルアブレーションが急速に普及した今日において、出張カテーテルアブレーションのもつ社会的意義は変わってきています。
カテーテルアブレーションを正しく普及させることは、本学会の主要なミッションの一つです。そのためにカテーテルアブレーションを施行する施設要件をガイドラインで定め、様々な教育の機会を関係者に提供するよう努めるとともに、J-ABレジストリを開始し全国の医師の理解と協力のもと合併症情報の収集も行っています。しかし、「このような方向性から大きく外れた出張カテーテルアブレーション」が施行されていること、そこで重症合併症が起きていることが明らかになっています。そのような適切ではない出張カテーテルアブレーションを施行する施設における治療成績や合併症頻度は全く不明です。
すべての患者に、安全かつ有効なカテーテルアブレーションを受けていただくため、本学会において、「出張カテーテルアブレーションを施行する際に求められる要件に関するステートメント」を作成することとしました。

出張カテーテルアブレーションの定義と施設・術者に求められる要件

【定義】
本ステートメントにおける出張カテーテルアブレーションは、以下のように定義します。
「常勤医師によるカテーテルアブレーションを提供していない施設で、非常勤医師が出張して実施するカテーテルアブレーション」
常勤医師がすでにカテーテルアブレーションを施行している施設に、補助・教育(プロクター)のために非常勤医師が出張する場合は本定義に含まれません。

【施設に求められる要件】
出張カテーテルアブレーションを行う施設は以下の1および2の両方の要件を満たすこと

1.「不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)」(日本循環器学会 /日本不整脈心電学会合同ガイドライン)に示された基準に従っている施設

表 50 アブレーション実施施設基準

  • 循環器内科または小児循環器科を標榜している保険医療機関であること
  • 日本不整脈心電学会認定不整脈専門医、もしくはこれに準ずる経験を有する常勤医師が1名以上配置されていること
  • 緊急心臓血管手術が可能な体制を有していること、もしくは同様な体制を有している保険医療機関と連携していること
  • 常勤の臨床工学技士が1名以上配置されていること

2.J-ABレジストリに参加し、合併症を報告する体制が整っている施設
日本不整脈心電学会は、カテーテルアブレーションを施行する施設にJ-ABレジストリへの参加を求めています。出張カテーテルアブレーションを施行している施設もレジストリ参加対象です。J-ABレジストリは中央一括審査により倫理審査を行っているため、情報提供施設として施設長の許可が得られれば、施設の倫理委員会にかけることなく参加することができます。参加を希望される場合は、下記のウェブサイトを参照してください。
https://new.jhrs.or.jp/contents_web/j-ab/04_entry.html

【術者に求められる要件】
出張カテーテルアブレーションを行う出張医師は以下の3つの要件をすべて満たすこと
・日本不整脈学会認定不整脈専門医、もしくは同等以上の専門性を有すると認められる医師
・カテーテルアブレーションに関して特段に豊富な経験と技術を有する医師
・カテーテルアブレーションを主たる業務の一つとして継続して行っている医師
カテーテルアブレーションはチームで行う治療です。出張で治療を行う術者は、慣れない環境下で、慣れていないスタッフとともに治療にあたることとなります。そのため、カテーテルアブレーションに特に精通し、継続して鍛錬を積んでいることが求められます。

例外

原則、上記の施設要件と術者要件を満たして出張カテーテルアブレーションを施行するべきですが、地域の実情(近隣の市町村にカテーテルアブレーションが可能な病院が存在しない)や、症例の特殊性(小児症例、搬送が困難な症例)を考慮して例外が許容される場合があります。医療従事者としての良識に基づいて是非を判断してください。

補足事項

本ステートメントは、出張カテーテルアブレーションが適切な形で行われることを意図して作成されています。出張カテーテルアブレーションを禁止しようとするものではありません。
また、出張カテーテルアブレーションは、関係する医療関連企業のサポートがなければ成立しないことも認識しています。したがって、企業も本ステートメントの趣旨と目的を理解いただくことを切望します。

2023年9月29日
日本不整脈心電学会
理事長 清水 渉
カテーテルアブレーション委員会
委員長 井上耕一

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