日本不整脈心電学会

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リードレスペースメーカ経静脈抜去術の運用について

2023年10月10日
一般社団法人日本不整脈心電学会
同 植込み型デバイス委員会委員長 安部治彦
同 植込み型デバイス委員会委員
高木雅彦、石井庸介、野田 崇、庄田守男、栗田隆志
同 医療安全委員会委員長 草野研吾
同 理事長 清水 渉

リードレスペースメーカ(LP)抜去術の適応について

 LP植込み患者からLP抜去を考慮する臨床的状況として、下記1)〜7)の場合が想定される。

1) デバイス感染症あるいは感染が強く疑われる症状があり、治療としてLP抜去を必要とする場合

2) デバイス感染が明らかでない難治性、再発性菌血症の場合

3) LP植込み後急性期(6週間以内)に、閾値上昇によるペーシング不全などのデバイス作動異常が認められる場合

4) 心壁からの離脱や合併症などにより早急に抜去を必要とする場合

5) LPによる三尖弁逆流、不整脈などの合併症により抜去を必要とする場合

6) 電池寿命後に新規のシングルチャンバ・ペースメーカを追加する場合に、体内での遺残デバイスが新規植込みの障害となる場合

7) 患者の病態の変化によるデバイス変更(シングルチャンバ・ペースメーカから、デュアルチャンバ・ペースメーカやCRT-P/D、ICDなどの植込み型デバイスへの変更)が必要になり、体内での遺残デバイスが新規植え込みの障害となる場合

 Aveir LP(Abbott社)は抜去を意図して設計されており、専用の抜去用リトリーバルカテーテルを使用してLP抜去を行うことは可能と考えられている。ただし、抜去を必須としているのではなく医師の判断により本体の抜去が困難あるいは必ずしも抜去が必要と判断されない場合には、本体の機能を恒久的に停止したまま患者の体内に残すよう、添付文書にて注意喚起している。これは既存の経静脈リードおよびMicra LP(Medtronic社)と同等の措置であるが、Micra LPには専用の抜去用ツールはなく、長期植込み後の抜去を前提としないデバイス設計となっている。
 LP抜去を考慮する状況には、1)〜5)の臨床上の緊急性と必要性の高いと思われる治療的抜去から、6)〜7)の予防的抜去までが含まれる。また、抜去の方法には、スネアやリトリーバルカテーテルを用いた経静脈的抜去と開心術による外科的抜去があるが、現時点では経静脈的抜去が不成功の場合には、開心術による抜去を考慮せざるを得ない。しかし開心術による外科的抜去は患者の精神的・肉体的負担が極めて大きい。
 LP抜去には一定のリスクを伴うことも想定されるが、現時点でAveir LPの専用リトリーバルカテーテルを用いた抜去に関する臨床成績の報告はなく、抜去の成功率や合併症の発生率に関する情報もない。参考として、前位モデル (Nanostim LP)における241例の慢性期抜去例での臨床成績では、抜去までの平均植込み期間は3.1±1.9年での抜去手技成功率は88%、不成功率が12%であった。抜去に伴う死亡例の報告はなかったものの血管アクセスに伴う合併症(動静脈瘻を含む)、ドッキングボタンの脱落などのLP機器に伴うイベントなどの有害事象が報告されている。また、抜去に伴い心臓弁損傷や心タンポナーデなどの心損傷イベントも報告され、心臓外科手術による弁修復術や弁置換術を要した例もあった。
 急性期あるいは亜急性期にスネアを用いて経静脈的抜去を行ったMicraの報告例は、少数ながら散見される。しかしながら、上記1)〜5)に該当する臨床的状況など抜去を考慮せざるを得ない状況においては、抜去を前提としないデバイス構造のMicra LPであっても、抜去を検討することは妥当であり、その場合にはスネアを用いた経静脈的抜去も可能である。

日本不整脈心電学会としての推奨

 これらの状況を踏まえ、2023年1月に日本不整脈心電学会から公表された「リードレスペースメーカ植込み術および抜去術に関する施設要件、術者要件」(下記参照)で示された施設要件と術者要件を遵守した上で、患者の治療上LP抜去以外に代替手段がなく、開心術を考慮せざるを得ない場合など、やむを得ないと思われる状況に際してスネアカテーテルやリトリーバルカテーテルを用いたLP抜去を考慮するのは妥当と思われ、上記1)〜5)の治療的抜去がそれに該当すると考えられる。現時点では、抜去に伴う合併症の発生が否定できないことから、LPの予防的抜去(上記6)および7)が該当)については推奨されない。 但し、今後の新たな臨床エビデンスの蓄積により本運用指針は変更される可能性はある。

参考:日本不整脈心電学会「リードレスペースメーカ植込み術および抜去術に関する施設要件、術者要件」より

施設に求められる要件

植込み術に求められる施設要件

  • ペースメーカ移植術およびペースメーカ交換術の施設基準を満たし、交換を含む⼿術を常勤医が年間10例以上実施していること
  • 緊急⼼臓⾎管⼿術が⾃施設で可能な体制を有していること
  • ⼼臓⾎管外科専⾨医が常勤していること

ただし、やむを得ず⼼臓⾎管外科が併設されていない施設、あるいは心臓血管外科専門医がいない施設で植込む場合には、本学会に以下の情報を事前申請する。毎年3~4月に必ず確認申請書をメールで本学会事務局まで送付のこと

① 連携医療施設と⼼臓⾎管外科専⾨医の責任者名(依頼施設管理者(病院長)承諾書および連携施設管理者(病院長)承諾書を含む)

② 連携医療施設での緊急外科対応ができる曜⽇と時間帯

③ どのような場合に、どのような⼿順で⼼臓⾎管外科へ連絡するか

④ 搬送⽅法と推定搬送時間。搬送先病院の開胸⼿術に必要な⼿術機器、⼿術室、⿇酔科医、臨床⼯学技⼠、看護⼠、⼈⼯⼼肺などの準備体制

抜去手術に求められる施設要件

  • ペースメーカ移植術およびペースメーカ交換術の施設基準を満たし、交換を含む⼿術を常勤医が年間 10 例以上実施していること
  • 緊急⼼臓⾎管⼿術が⾃施設で可能な体制を有していること

※リードレスペースメーカ抜去術を行うためには、緊急⼼臓⾎管⼿術が⾃施設で可能な体制を有している必要があります

術者(医師)に求められる要件
  • 不整脈デバイス治療に関する⼗分な専⾨的知識と植込み経験を有していること
    (不整脈専⾨医資格を有することが望ましい)
  • 関連学会監修の製造販売業者が実施する研修を受講済であること
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