1.研究の背景

1.1.現状

本邦においては、1996年に致死的不整脈に対し植込み型除細動器(ICD)、2004年に心機能低下患者に対し心臓再同期療法(CRT-P)、2006年に心臓再同期療法付きICD(CRT-D)が保険適応となり、2015年には皮下植込み型除細動器(S-ICD)も使用可能となった。同時に診断アルゴリズムの発達、遠隔モニタリングによる異常所見の早期発見、His束ペーシングをはじめとする刺激伝導系ペーシングの波及、また条件付きではあるもののMRI対応が一般的になる等している。植込み型心臓電気デバイス(CIEDs ;ICD、CRT-P、CRT-D、S-ICD)の発展は日進月歩であり、年間6,000件前後のICD、CRT-Dの新規植込みおよび交換術が施行されている。本邦でも2001年に「不整脈非薬物治療ガイドライン」の初版が策定・刊行され、その後新たなエビデンスに対応しながら、CIEDsの適応基準について改定が重ねられてきた。しかし、本邦で集積されたデータが少なく、ICD植込み術を施行されている症例の基礎疾患の分布が欧米と異なることやアジア人に多いBrugada症候群におけるリスクの階層化が明らかでなかったために、ICDやCRT-D植込み適応基準は欧米のメガトライアルの結果を基に作成されてきた。
そこで、一般社団法人日本不整脈心電学会(以下、日本不整脈心電学会)は、本邦のCIEDs治療の実態を調査し、本邦におけるCIEDsの適応基準を検討するために、2006年からJCDTRおよびNew JCDTRを行っている。その結果、CIEDs治療が施行された患者の臨床背景およびフォローデータを、2006年から2017年まではJCDTRとして約20,000例、2017年から2022年10月まではNew JCDTRとして約22,000例蓄積するに至っている。

1.2.現時点での課題

CIEDsに対する日本不整脈心電学会の主催研究として行われてきたJCDTRとNew JCDTR研究であるが、報告機関および報告された症例がいまだ限定的で、対象症例の臨床背景や結果に関する情報の欠損が存在している。

1.3.研究開始に至った経緯

New JCDTRの研究期間は2023年3月31日で終了するが、引き続き本邦のCIEDs治療の実態を把握することが求められる。また、先行研究の問題点の改善、関連する近年の医療状況の変化に対応していくために、新しい研究として「New JCDTR 2023」(以下、本研究)を開始することとした。

1.4.研究の意義

集積されたデータは、医療従事者に対して有用であるのみならず、患者・行政・司法においても有用である。集積が進むことで、合併症発生の予測等に役立つPrecision Medicineに使用できるデータになると考えられる。また、将来的にはアジア太平洋不整脈学会(APHRS)や欧州不整脈学会(EHRA)、循環器疾患診療実態調査(The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Diseases, JROAD)等他学会のデータベースと合わせて研究を進めることで、CIEDs治療の医療経済への影響の算出にもつながると考えられる。

1.5.研究実施の妥当性

本邦におけるCIEDs治療に関する実態を把握することで、今後のCIEDs治療の適切な対応、医療資源の活用および国民の健康促進につながると考えられる。

2.研究の目的

本邦におけるCIEDs治療の実態(植込み実施機関数、植込み術者数、疾患分類、患者背景、植込み適応、植込みデバイス機種、合併症割合、経過等)の把握を目的に、大規模データベースを構築する。そのうえで、CIEDs治療の有益性・安全性およびリスクを明らかにし、CIEDs治療の適性を検討する。

3.研究対象

本研究の対象は、全国のCIEDs植込み実施機関(既存試料・情報の提供のみを行う者が所属する機関)において、CIEDs治療が実施された患者とする。この場合の既存試料・情報の提供のみを行う者が所属する機関とは、既存のデータ情報を本研究のために提供する機関のことをいう。
なお、本研究で使用するデータは、CIEDs治療の現状を把握するための症例データであり、除外基準は設けない。

3.1.選択基準

前向き部分:2023年4月1日~2028年3月31日にCIEDs治療を実施された患者
後向き部分:2006年1月1日~2023年3月31日にCIEDs治療を実施された患者

3.2.除外基準

既存情報の提供に関する同意が得られなかった患者、または提供に関して拒否を申し出た患者は除外する。

3.3.研究対象者の抽出方法

既存試料・情報の提供のみを行う者が所属する機関において、CIEDs治療が実施された患者を各機関が抽出する。

4.研究の方法

4.1.研究デザイン

① デザイン  多機関・前向きおよび後向きコホート研究
② 侵襲の有無 無
③ 介入の有無 無
④ 試料の利用 無
⑤ 情報の利用 既存情報を利用

4.2.研究のアウトライン

同意が得られた研究対象者のCIEDs植込み時からの情報(6. 観察項目参照)を、1年毎にデータベースに登録する。日本不整脈心電学会で集積されている過去の情報(後向き部分)と本研究で集積した情報(前向き部分)を合わせ、植込み時の臨床背景とその後の予後等を比較することにより、植込みの適切・不適切を判断する。

4.3.研究実施期間・研究対象者の登録期間・研究対象者の観察期間

研究実施期間、研究対象者の登録期間、研究対象者の観察期間は以下とするが、観察期間は対象者の同意取得後から死亡あるいは経過観察不能までとし、それぞれ5年毎に見直す。

研究実施期間:2023年4月1日~2028年3月31日

①前向き部分
前向き部分登録期間:2023年4月1日~2028年3月31日
前向き部分観察期間:2023年4月1日~2028年3月31日

②後向き部分
後向き部分対象期間:2006年1月1日~2023年3月31日
後向き部分観察期間:2023年4月1日~2028年3月31日

5.目標症例数およびその設定根拠

①前向き部分
目標症例数:25,000例
目標症例数の設定根拠:
対象となる患者は、JCDTRおよびNew JCDTRの登録実績から年間5,000例程度と推察される。目標症例数の25,000例は、症例登録期間(2023年4月1日~2028年3月31日)の5年から算出した。

②後向き部分
対象となる患者はJCDTR、New JCDTRおよびNew JCDTR2023で集積された約45,000例。

6.観察項目とスケジュール

1)前向き部分

観察期間中に実臨床で測定された以下の項目を、診療記録より収集する。なお、2006年1月1日~2023年3月31日にCIEDs治療を実施された患者は、植込み時の登録事項を入力し、観察期間は2023年4月1日からとする。2023年4月1日以前にイベント(適切・不適切作動、死亡)あるいは観察不能になった患者は、その旨を1年目の経過観察記録に入力する。2023年4月1日以降にCIEDs治療を実施された患者は、その後、1年毎に経過観察を行い、死亡あるいは経過観察不能まで継続する。

①植込み時

植込み時における以下の情報を収集する。

○基礎項目
年齢、性別、植込み施行日、植込みデバイスの種類、植込み術者、植込み目的、二次予防時の対 象不整脈、植込み適応、植込みデバイス機種、植込み時のモード、植込みリード、除細動テストの有無、植込み時の合併症

○患者背景情報
身長、体重、基礎心疾患、冠動脈疾患の有無、冠動脈造影、植込み時までの血行再建術の既往、 心房細動/心房粗動の有無、心疾患以外の疾患、NYHA分類、左室機能、植込み時の心電図・胸部X線、非持続性心室頻拍(NSVT)の有無、VT/NSVTに対する治療の既往、Dys-synchrony、加算平均心電図、TWA、電気生理学的検査、Holter心電図、血液・生化学結果等

○植込み時の併用薬剤
抗不整脈薬、心血管作動薬、抗凝固薬・抗血小板薬 

○植込み時の状況
着用型自動除細動器(WCD)使用の有無、腎臓透析の有無

②経過観察

1年毎に以下の情報を収集する。

○観察(イベント)・死亡・経過観察不能・頻拍治療中止の有無 イベント〔心室頻拍(VT)/心室細動による適切作動、不適切作動、心不全のための入院、デバイス関連の合併症、デバイス関連の再手術〕の有無、死亡・経過観察不能・頻拍治療中止の日付および理由

2)後向き部分

2006年1月1日~2023年3月31日までに登録された以下の情報を収集する。

○基礎項目(植込み時)
年齢、性別、植込み施行日、植込みデバイスの種類、植込み術者、植込み目的、二次予防時の対象不整脈、植込み適応、植込みデバイス機種、植込み時のモード、植込みリード、除細動テストの有無、植込み時の合併症等

○患者背景情報
身長、体重、基礎心疾患、冠動脈疾患の有無、冠動脈造影、植込み時までの血行再建術の既往、心房細動/心房粗動の有無、心疾患以外の疾患、NYHA分類、左室機能、植込み時の心電図・胸部X線、非持続性心室頻拍(NSVT)の有無、VT/NSVTに対する治療の既往、Dys-synchrony、加算平均心電図、TWA、電気生理学的検査、Holter心電図、血液・生化学結果等

○観察(イベント)・死亡・経過観察不能・頻拍治療中止の有無
イベント〔心室頻拍(VT)/心室細動による適切作動、不適切作動、心不全のための入院、デバイス関連の合併症、デバイス関連の再手術〕の有無、死亡・経過観察不能・頻拍治療中止の日付および理由

7.研究の実施手順

①既存試料・情報の提供のみを行う者が所属する機関からの許可
倫理審査を終えた本研究計画書を既存試料・情報の提供のみを行う者が所属する各機関に送付し、対象とする患者の情報提供の許可を機関の長から得る。

②既存試料・情報の提供のみを行う者が所属する機関のデータ提供
既存試料・情報の提供のみを行う者が所属する各機関では、CIEDs治療が実施された患者の診療目的で収集された既存情報を抽出し、日本不整脈心電学会ホームページ内の本研究症例登録ページを介して提供する。
※氏名・住所・生年月日等個人を特定できる情報は含まない。既存試料・情報の提供のみを行う者が所属する機関の入力者は、新規症例登録および経過観察登録ページにデータを入力する。

③ データ解析
研究代表機関は、入力されたデータを解析する。
※既存試料・情報の提供のみを行う者が所属する機関から要望があった場合、日本不整脈心電学会植込み型デバイス委員会登録評価部会で審議後、別途研究計画書に基づき、または本研究計画書を変更したうえで、研究代表機関にて追加解析を行う。解析結果は植込み型デバイス委員会に送付され、要望した機関に提供する(データセットは提供しない)。

8.解析  

CIEDs治療の実施状況(植込み件数、診断名、実施機関数、術者数、合併症、地域、施設特性等)について、頻度または記述統計量を算出し、年次報告を行う。また、評価項目のうち合併症、転帰(適切作動、不適切作動、死亡、生存)は、関連する要因(基本項目および疾患別項目)について、一般化線形モデルを用いて検討する。その他の評価項目については、研究分担者(統計解析)と検討のうえ、各々適切な解析手法を用いる。

研究組織及び研究代表者

一般社団法人 日本不整脈心電学会  理事長 清水 渉  
同 植込み型デバイス委員会     委員長 安部 治彦 
同 植込み型デバイス登録評価部会  部会長 三橋 武司

研究代表者             三橋 武司

参加施設一覧

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