研究概要

1.研究背景

現状

経静脈的リード抜去術(TLE:Transvenous Lead Extraction)は、デバイス関連感染、リード機能不全、血管閉塞などを理由に実施される治療法である。ペースメーカやICD(植込み型除細動器)、CRT(両心室ペーシング)デバイスの普及に伴い、TLEが必要となる症例は増加傾向にある。
日本国内では、2018年にJ-LEX(Japanese Lead Extraction Registry)が日本不整脈心電学会(JHRS)の主導で開始され、全国規模のTLE症例登録が行われた。J-LEXの報告では、完全抜去率96.7%、臨床成功率98.9%、周術期合併症率4.1%が示され、国内のTLEが比較的安全に実施されていることが確認された。

現時点での課題

近年、新規リードとしてHis束ペーシングリードや左脚領域ペーシングリード、ルーメンレスリード、スクリュー固定型左室リードなどが普及しているものの、それらの抜去データは十分に蓄積されていない。また、施設や術者によって手技のバリエーションが多岐にわたり、安全性や有効性を確保するためには、より詳細な症例データや手技情報の収集が求められている。

研究着想に至った経緯

欧州のELECTRa(The European Lead Extraction ConTRolled study)や米国のLExICon(Lead Extraction in the Contemporary Settings)といった海外レジストリを参照し、日本版のJ-LEXが設立された。しかし、TLEの適応拡大と技術進歩により、従来の評価項目だけでは新しいリードを含むTLEの全容把握が十分ではなくなってきた。

研究の意義

J-LEX IIでは、日本全国におけるTLEの実態を詳細に把握することで、合併症の低減や成功率の向上に寄与するデータを蓄積することを主な目的とする。手技の詳細な解析を通じて、TLEの成功基準や合併症評価基準を統一し、手技の標準化と安全性向上に貢献する。
さらに本研究では、TLEに加えて、皮下植込み型除細動器(S-ICD)や血管外植込み型除細動器(EV-ICD)のリード抜去も対象に含める。これらは経静脈的リードには該当しないが、実臨床での抜去ニーズは高まっており、技術的課題や安全性に関する知見は乏しい。J-LEX IIでは、これら非経静脈的リードの抜去症例についても体系的にデータを収集・解析し、リード抜去術全体の質的向上を図る。
このような包括的なリード抜去症例の把握を通じて、安全かつ標準化された抜去手技の確立、ならびに国内外のガイドラインへの貢献を目指す。

研究実施の妥当性

本研究は、JHRSが主体となり、最新のガイドラインや先行研究の知見を踏まえて実施される。リード抜去に関する科学的根拠が不足している領域を補完し、倫理的・科学的にも妥当性がある。また、多施設共同での大規模データ収集により、施設間差を補正した解析を行い、リード抜去術に関する一般化可能なエビデンスを得ることができる。

2.研究目的

本研究は、日本全国の多施設におけるリード抜去術の実施状況を前向きに検討し、手技の安全性向上とリスク管理の最適化を図ることを目的とする。TLEを中心に、新規リードやS-ICD・EV-ICDリードの抜去を含む広義のリード抜去症例を対象に、詳細な手技評価および施設間差の検討を行い、標準化と質の向上を目指す。

3.研究対象

選択基準

リード抜去術が実施された患者であり、研究に参加を希望する施設が保有する診療録に基づいて、患者情報の提供が可能であること。なお、TLEに加えて、S-ICDおよびEV-ICDのような血管外に留置されたリードの抜去症例も、本研究では対象に含める。

除外基準

開胸手術単独によるリード抜去症例は本研究の対象外とするが、TLEと開胸手術のハイブリッド手技を併用した症例については除外しない。また、研究データの利用に関して患者本人または代理人が拒否した場合も、対象から除外する。 さらに、極めて希少な症例や特異な患者背景を持つ症例など、匿名化が困難と判断される場合は、個人の特定を避けることができないため、研究対象から除外する。匿名化の可否については、研究事務局がデータ提供施設と協議のうえ判断し、必要に応じて研究倫理審査委員会に報告する。

4.研究方法

各参加施設の診療録データベースから、リード抜去術を実施した症例を抽出し、対象症例を選定する。抽出された患者の識別情報については、匿名化を徹底した上で、EDCシステムに入力する。

5.登録項目

性別、年齢、身長、体重、リード抜去手術の回数、抜去日時、抜去場所、抜去リードの植込み日、合併症等

6.評価項目

リード抜去術の成功率を 完全抜去、不完全抜去、不成功の3つのカテゴリーに分類し、評価する。また、手技中および術後の合併症発生率についても検討し、具体的には心嚢液貯留、心タンポナーデ、血胸、大出血、肺塞栓症などの主要な合併症の発生状況を分析する。さらに、退院時の転帰(生存または死亡)についても把握し、リード抜去術の安全性に関する知見を蓄積する。

7.目標症例数

5,000例

8.研究期間

予定研究期間:研究許可日から2032年12月31日まで
研究対象期間:2025年1月1日から2029年12月31日まで

9.研究体制

本研究は、研究代表機関、共同研究機関、情報提供機関、研究事務局の四つの主体によって構成され、それぞれが役割を担いながら研究の統括管理、データ収集、解析を行う。

(1)研究代表機関

一般社団法人 日本不整脈心電学会

研究代表者(植込み型デバイス委員会・リード関連検討部会 部会長)

合屋雅彦   国際医療福祉大学三田病院循環器内科

研究分担者(植込み型デバイス委員会・リード関連検討部会 部会員)

岡田綾子   信州大学医学部附属病院循環器内科

成田裕司   名古屋大学医学部附属病院心臓外科

西井伸洋   岡山大学大学院医歯薬学総合研究科先端循環器治療学講座

林 克英   産業医科大学不整脈先端治療学講座

南口 仁   大阪けいさつ病院循環器内科

研究分担者(植込み型デバイス委員会・リード関連検討部会 アドバイザー)

庄田守男   東京女子医科大学 循環器内科

研究分担者(植込み型デバイス委員会・リード関連検討部会 協力員)

草野研吾   国立循環器病研究センター不整脈科

和田 暢   国立循環器病研究センター不整脈科

(2)共同研究機関

J-LEX IIデータセンター

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター OIC情報利用促進部

研究責任者(データマネジメント統括)

宮本恵宏   国立循環器病研究センターOIC情報利用促進部

研究分担者(データマネジメント)

住田陽子   国立循環器病研究センターOIC情報利用促進部

田尾美里   国立循環器病研究センターOIC情報利用促進部

田中晴菜    国立循環器病研究センターOIC情報利用促進部

研究分担者(統計解析)

金岡幸嗣朗  国立循環器病研究センターOIC情報利用促進部

(3)情報提供機関

全国のリード抜去術実施施設(参加施設リストは別添)が情報提供機関として、データ提供の主体となる。各施設は症例登録の責任を負い、対象症例の抽出および匿名化を実施する。登録されたデータは研究事務局によって定期的に確認され、データの一貫性や整合性に関するチェックが行われる。
不整合や不備が確認された場合、研究事務局は各施設へフィードバックを行い、適切な修正を依頼する。これにより、データの正確性を確保し、研究の信頼性を維持する。

参加施設一覧

(4)研究事務局

JHRS事務局内に研究担当部署を設置し、各施設との連絡調整およびデータ管理を行う。