1.研究の背景

器質的心疾患や遺伝的背景を有する症例において、致死的心室性不整脈(心室頻拍: VT/心室細動: VF)が突然死の原因となることが報告されており、現在ではその様なリスクを持つ症例に対して除細動機能を持つ植込み型デバイス(Implantable cardioverter-defibrillator; ICD)などを適用することが標準的な治療となっている 。各国の学会ではその適応に関するガイドラインを示し、本邦でも保険償還に使用の条件を加えるなど適切な運用が行われている。ガイドラインにおける適応基準は、科学的に検証された大規模試験の結果に基づいて明確に規定されているが、その反面、植込み型除細動デバイスの適応についていわゆる「境界域(グレーゾーン)」の症例においては、突然死のリスクを想定しながらもデバイスを適用できない症例も存在する。着用型自動除細動器(wearable cardioverter defibrillator: WCD)は、伸縮性のあるベスト内に接触型心電図電極と除細動用のパッドを配した着用型のデバイスで、接続したコントローラにより患者が意識を消失する様な致死的心室性不整脈(VT/VF)を自動診断し、必要な際に自動的な直流除細動を行う。欧米では、主にICDなどの適応が決定するまでの期間、あるいは感染や他疾患など患者の身体的状況によってICDなどが直ちに使用できない場合の使用が試され、その突然死予防効果が報告されている。WCDは本邦でも2014年から保険償還が認められ、その使用に関するステートメントおよびガイドラインが提言されており、厳格な保険償還既定の範囲内ですでに臨床的使用が開始されている。しかし、WCDはその適用が「着用」という簡易な手技によって開始されながら、その継続使用にあたっては患者自身や使用の指導者(医師、臨床工学技士、看護師など)の適切な理解を要するという特殊性がある上に、WCD使用による救命効果、あるいは安易な乱用による医療経済的浪費について、専門家のなかでもいくつかの懸念がある。WCDが優れた救命デバイスであることは明らかであるが、どの様な運用を行うことでより効果的な治療介入を行えるのかを明らかにすることは極めて重要な課題であり、本邦の保険適応や運用の指針を修正していくためにも必須の情報である。そこで本研究では、WCDの使用についデータベースを構築するとともに情報の集積を行い、本邦におけるWCD適応ガイドラインと運用の妥当性を検討する。

2.研究の目的と意義

我が国のWCD治療の実態とその臨床的帰結を調査する。それによって、WCDの適応基準および運用方法の妥当性を検討する。

3.研究対象者

日本でWCD治療が行われた患者で以下の選択基準をすべて満たし、除外基準のいずれにも該当しない患者を対象とする。 WCDの適応は、本邦のガイドライン(最新版)に準拠する。

選択基準

① 年齢不問

② 性別不問

③ 観察期間中の診療録情報がある者

④ 本研究の参加にあたり十分な説明を受けた後、十分な理解の上、患者本人あるいは代諾者の自由意思による文書同意が得られた者

⑤ 登録時にすでにWCDの使用を終了している症例も含む。

除外基準

該当なし

4.研究の方法

1)研究の種類・デザイン
既存情報を用いた後向き研究及び介入を伴わない前向き観察研究

2)研究のアウトライン
本研究では、同意が得られた研究対象者については、WCD適用開始からの情報(4.観察項目参照)をデータベースに登録する。WCDの保険償還期間は3カ月を上限とされているため、期間を問わず使用終了時(上限3カ月)のデータをデータベースに登録する。本研究で集積した情報から、WCD適用時の臨床背景とその後の予後等を比較することにより、WCDの使用が適切であったかどうかを検討する。

3)個々の研究対象者に関する中止基準
① 研究対象者から研究参加の辞退の申し出や同意の撤回があった場合
② 研究全体が中止された場合
③ その他の理由により、研究者が研究を中止することが適当と判断した場合

4)研究対象者の研究参加予定期間
WCDの使用期間(上限3カ月)。

5.観察項目とスケジュール

観察期間に実臨床で測定された評価項目を、診療記録より収集する。

1)WCD使用開始時
植込み時の以下の情報を収集する。

① 基礎項目
性別、年齢、WCD適用開始日、WCD処方者、WCD使用目的、一次予防時の適用理由、二次予防時の適用理由、使用場所、着用指導、メーカ補助、WCD適用時の内服薬、腎臓透析の有無

② 患者背景情報
身長、体重、基礎心疾患、冠動脈疾患の有無、冠動脈造影、植込み時までの血行再建術の既往、心房細動・粗動の有無、心疾患以外の疾患、NYHA 分類、左室機能、植込み時の胸部X線・心電図、非持続性心室頻拍(NSVT)の有無、VT.NSVTに対する治療の既往、血液生化学検査

2)観察終了時
3カ月を上限とした経過観察のあと以下の情報を収集する。
イベントの有無(VT/VFの発生、不適切作動、死亡、心不全のための入院、デバイスに関する合併症、デバイス関連の再手術)、WCD使用終了後のデバイス治療、WCD使用中または終了時に追加した評価・検査(NYHA分類、左室機能、加算平均心電図、T波変動(TWA)、電気生理学的検査、ホルター心電図)、WCD使用中に追加した治療(植込み型心臓モニタ、カテーテルアブレーション、血行再建術)、WCD使用終了時の使用薬剤、経過観察不能と判定した日

6.目標症例数と研究期間

1)目標症例数
目標症例数:対象全例とする。なお、前向き部分と後向き部分の内訳は以下のとおりである。

前向き登録:対象全例とするが、年間約500例の集積が予測されるため、登録期間中に約2,500例を目標とする。

後向き登録:すでにWCDが使用された約1,000例のうち、カルテ等で客観的データが収集できる症例を対象とする。なお後ろ向きデータ利用の可否は、データ利用を認めない患者の自由意思を提示する機会を、オプトアウト等で適切に確保したうえで判断する。

2)研究期間
研究実施期間、登録期間、観察期間は以下とする。なお、それぞれ5年ごとに見直しをする。

研究実施期間
2020年10月1日以降実施施設での研究承認後 ~ 2026年3月31日

前向き登録者
登録期間:2020年10月1日 ~ 2025年12月31日
観察期間:2020年10月1日 ~ 2026年3月31日

後向き登録者
対象とする期間:2015年1月1日 ~ 2020年9月30日

7.研究組織および研究代表者

主導学会: 一般社団法人日本不整脈心電学会
      理事長               清水 渉
      デバイス委員会委員長        安部治彦
      デバイス委員会教育認定制度部会長  髙木雅彦
      WCDワーキンググループ委員長     庭野慎一

研究代表者:庭野慎一 北里大学医学部循環器内科学