洞不全症候群のプレシジョン医療実現化に向けたAll-Japanプロジェクト
(All Japan Precision Medicine Project for Sick Sinus Syndrome; J-PRES3)
国立循環器病研究センター メディカルゲノムセンター 研究部長 大野聖子
日本人洞不全症候群の遺伝的素因の解明とプレシジョン医療の実現
洞不全症候群(SSS)は加齢や併発する器質的心疾患など様々な原因によって洞機能が低下し、病的な徐脈や徐脈頻脈をきたす不整脈である。罹患率は年齢とともに上昇し、65歳以上では人口の600人に1人に見られるコモンな不整脈で、年間約4万人の新規ペースメーカ植込み患者の約4割を占める。一方ペースメーカ治療がなされたSSS患者の半数以上に心房細動(AF)や心房粗動などの心房不整脈を合併してくることから、抗凝固療法や除細動などの治療が必要になる。またAFに対するカテーテルアブレーション後に高度の徐脈をきたすAFとSSSの合併症例は少なくない。AFはSSSよりもさらに罹患率が高いが、両者は加齢や線維化や器質的心疾患などの多くの共通のリスク要因を持ち、電気的リモデリングと構造的リモデリングを共通の発症基盤とするコモンな多因子性不整脈である。
AFとSSSの遺伝的リスクを解明する研究が最近急速に進んできた。2007年のゲノムワイド関連解析(GWAS)によって最初のAF関連遺伝子座が解明されるとともに急速に研究が進み、この10年余で日本人特異的なものも含めて30個の遺伝子座が明らかになった。一方、SSSの疾患感受性遺伝子は、アイスランド人で行われた小規模なGWAS(Holm et al. Nat Genet 2011)で指摘されたMYH6(αミオシン重鎖)のみで、SSSのリスク遺伝子はほとんど解明されていない。
本研究の目的は、All-Japanの布陣でSSS症例を集積し、アジア人の遺伝子解析に最適化されたマイクロアレイを使ってGWASを行い、日本人のSSSに特異的な遺伝的リスクを明らかにすることである。さらにその結果を既知のAFの遺伝的リスクと比較することで、SSSとAFの共通の発症基盤や、AFアブレーション後のSSS合併のメカニズムを解明し、個人のリスクに応じたプレシジョン医療の実現を目指す。
適応基準
- SSSと診断され、ペースメーカーを植込まれた方
- SSSによって心拍数40bpm未満が記録された方
- SSSによって5秒以上のポーズが記録された方
*薬剤内服後にSSSを発症した症例も含みます
除外基準
- 甲状腺機能低下症など代謝性疾患に伴う二次性のSSS
- 先天性心疾患術後など、手術を契機として発症したSSS
- 方法
1)各施設において、研究者より対象患者さんへ本研究について説明を行い、研究協力の同意をいただく。末梢血10mLを採血し、登録用紙へ必要事項を記入し、心電図を用意する(「症例登録の流れ」参照)。
2)各施設倫理委員会の指示に従い、患者さんの個人情報を匿名化する。検体、臨床情報、同意書写しを国立循環器病研究センターへ送付する。
3)国立循環器病研究センターにおいて、検体からゲノムDNAを抽出し、GWASを行う。一部の検体に関しては、東京医科歯科大学疾患バイオリソースセンターへゲノムDNAを送って解析を分担する。健常人コントロールに関しては、東京医科歯科大学においてGWASを行う。
- 健常人コントロール
健常人(3,000人分)は、滋賀県住民コホート(SESSA・高島スタディ)との共同研究で集積する(https://shiga-publichealth.jp/sessa/)。 - 研究期間 2018年3月29日〜2025年3月31日
- 倫理承認
主研究施設の国立循環器病研究センター倫理委員会(2021年8月18日、研究課題番号M30-095-6)、ならびに全国の研究参加施設の倫理委員会にて承認 - 研究資金
1.日本医療研究開発機構(AMED)循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業
課題名「洞不全症候群の臨床情報・遺伝学的解析に基づくリスク層別化アルゴリズムの開発」2.循環器病研究復興財団 山内進循環器病研究助成
課題名「洞不全症候群の遺伝学的背景の解明」 - 後援 日本不整脈心電学会