J-ABレジストリ概要

1. 研究の背景

(1)現状
本邦において、頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレーション治療は増加の一途をたどり、すでに年間10万例以上の手術がなされている。1 治療方法の発展に伴ってほぼすべての頻脈性不整脈が治療対象となり、いまや全国の医療機関において日々の診療として行われている。

(2)現時点での課題
ここまで発展したカテーテルアブレーション治療であるが、実際の治療方法や結果に関する情報は一部の機関からの報告に限られており、本邦全体でのリアルワールドの現状が把握されているとはいい難い。

(3)研究開始に至った経緯
今後、新しい治療機器の導入、治療対象や症例数が拡大することを考慮しても、一般社団法人日本不整脈心電学会(以下、日本不整脈心電学会)主導での全例レジストリを開始することの必要性が高まり、2017年よりJ-AB(カテーテルアブレーション全例登録プロジェクト)が開始された。今回、登録システムの変更及び入力項目の追加・修正等が必要となり、新しい研究として「J-AB 2022」(以下、本研究)を開始することとなった。

(4)研究の意義
研究成果は、医療従事者に対する有用なデータとなるのみならず、患者・行政・司法においても有用な情報となるものである。データの蓄積が進むことで合併症発生の予測等のPrecision Medicineに用いることができるデータになると考えられる。また、将来的にはアジア太平洋不整脈学会(APHRS)や欧州不整脈学会(EHRA)等との海外データベースに基づいたネットワーキングが可能となるとともに、循環器疾患診療実態調査(The Japanese Registry Of All cardiac and vascular Diseases, JROAD)等の他のデータベースと合わせて研究を進めることで、カテーテルアブレーション治療の医療経済への影響などの算出につながることが期待される。

(5)研究実施の妥当性
本邦におけるカテーテルアブレーション治療に関する実態を把握することで、今後の本邦におけるカテーテルアブレーション治療の適切な適応、医療資源の活用および国民の健康促進につながると考えられる。

2. 研究の目的

本邦におけるカテーテルアブレーション治療の現状(機関数、術者数、疾患分類、患者背景、合併症割合等)を把握するため大規模データベースを構築し、カテーテルアブレーション治療の不整脈診療における有効性・有益性・安全性及びリスクを明らかにすることを目的とする。

3. 研究デザイン

① デザイン   多機関・前向きコホート研究

② 侵襲の有無  無

③ 介入の有無  無

④ 試料の利用  無

4. 研究対象

本研究の対象は、全国のカテーテルアブレーション治療実施医療機関(情報提供機関)においてカテーテルアブレーション治療を実施された患者とする。この場合の情報提供機関とは、既存のデータ情報を本研究のために提供する機関のことをいう。
なお、本研究で使用するデータは、カテーテルアブレーション治療の現状を把握するために行われる連続症例よるデータであり、除外基準は設けない。

① 選択基準
2022年1月1日以後にカテーテルアブレーション治療を実施された患者

② 除外基準
既存情報の提供に関する同意が得られなかった患者、または提供に関して拒否を申し出た患者

③ 研究対象者の抽出方法
情報提供機関においてカテーテルアブレーション治療が実施された患者を各機関が 抽出

5. 目標症例数及びその設定根拠

目標症例数:40万例
目標症例数の設定根拠:
J-ABの登録実績から対象となる患者は年間10万例程度見込まれる。目標症例数の40万例は、症例登録期間(2022年1月1日~2026年3月31日)の4年と3か月から算出した。

6. 評価項目

(1)退院時情報
転帰(生存、死亡)、再発の有無

(2)合併症
合併症の有無、合併症の分類、出血の部位、出血の程度、空気塞栓部位、心臓・関連合併症詳細、食道関連合併症の有無、呼吸器合併症の有無、後腹膜血腫の有無、気胸の有無、血胸の有無、急性冠症候群の種類、洞不全症候群の種類、房室ブロックの種類、鎮静の影響の有無、合併症の重症度、処置、処置詳細

(3)アブレーション施行日より 1 年後追跡[詳細調査]
転帰(生存、死亡)、再発の有無、再発に対する治療介入の有無、治療方法、食道関連合併症発生の有無、肺静脈狭窄発生の有無

7. 研究の実施手順

① 倫理審査を終えた本研究計画書を情報提供機関に送付し、対象とする患者の情報提供の許可を機関の長から得る。

② 各情報提供機関では、カテーテルアブレーションが実施された患者の診療目的で収集された既存情報を抽出し、Electronic Data Captureシステム(以下,EDC)に提供する。

※EDC上には氏名・住所・生年月日など個人を特定できる情報は含まれない。情報提供機関の入力者は、ベースライン調査項目、治療に関する情報、退院情報を入力する。EDCへの入力は暗号化通信によるインターネット経由で行う。

③ J-ABデータセンターは、EDCに入力されたデータを解析する。

※報提供機関から要望があった場合、日本不整脈心電学会カテーテルアブレーション委員会J-AB部会で審議後、別途研究計画書に基づき、または本研究計画書を変更したうえで、J-ABデータセンターにて追加解析を行う。解析結果はカテーテルアブレーション委員会に送付され、要望した機関に提供する(データセットは提供しない)。

個人情報の流れ

8. 調査項目

対象とする患者の調査項目は、基本調査項目と詳細調査項目とし、詳細調査項目は毎年9月のカテーテルアブレーション治療実施患者に適用する。

9. 解析

カテーテルアブレーション治療の実施状況(カテーテルアブレーション治療件数、診断名、実施機関数、術者数、合併症、地域、施設特性等)について、頻度または記述統計量を算出し、年次報告を行う。また、評価項目のうち再発、合併症、転帰(死亡、生存)は、関連する要因(基本項目及び疾患別項目)について、一般化線形モデルを用いて検討する。さらに、施設要因及び術者要因といった階層要因をモデルに含めたマルチレベルモデルを用いた検討も行う。その他の評価項目については、研究分担者(統計解析)と検討のうえ、各々に応じた適切な解析手法を用いる。

10. 研究期間

予定研究期間      研究許可日~2030年03月31日
症例登録期間      2022年1月1日~2026年3月31日
情報の授受を行う期間  2022年1月1日~2027年3月31日