薬を用いた治療法~薬物療法~
不整脈の治療に用いる薬は抗不整脈と呼ばれ、いくつかの種類があります。心臓の電気は、様々なイオン〔電荷を帯びた原子でNa(ナトリウム)、K(カリウム)、Ca(カルシウム)が存在する〕が心臓の細胞の内外を出入りすることで作られますが、抗不整脈薬は主にイオンの出入口を遮断したり阻害したりすることで、電気の伝導を調整して脈を整えます。
治療にどの薬を用いるかは、不整脈の種類のみならず、ほかの心臓病の有無や心臓の機能(保たれているか低下しているか)によって異なります。また、薬は肝臓や腎臓で代謝されてから体外に排泄されるため、肝機能障害や腎機能障害をもっている患者さんには、薬の種類を制限したり、投与量を減量したりすることがあります。

患者さんにより薬の種類や投与量は異なる。
抗不整脈薬の分類
抗不整脈薬にはいくつかの種類があり、その作用によって分類されています。
➀Ⅰ群薬(プロカインアミド、ジソピラミド、シベンゾリン、ピルメノールなど)
Na(ナトリウム)チャネル遮断薬とも呼ばれます。Ⅰ群薬はNaイオンの出入口を遮断することで電気の伝導を遅くして、心臓の異常な興奮を抑制したり心拍数を抑えたりします。Ⅰ群薬はさらにIa、Ib、 Ic群に分けられます。主に、頻脈性不整脈に使用されます。
②Ⅱ群薬(プロプラノロール、カルベジロール、ビソプロロールなど)
β(ベータ)遮断薬とも呼ばれます。自律神経は、心臓・消化器・呼吸器などあらゆる生命活動を維持・調整するために24時間働き続けている神経です。活動時や昼間に活発になる交感神経と、安静時や夜間に活発になる副交感神経があります。Ⅱ群薬(β遮断薬)は交感神経を抑制することで、心臓の興奮を抑えたり心拍数を低下させたりします。主に頻脈性不整脈に使用されます。
③Ⅲ群薬(アミオダロン、ソタノール、ニフェカランドなど)
K(カリウム)チャネル遮断薬とも呼ばれます。Kイオンの出入口を遮断することで、活動電位の持続時間を延長させて心筋の異常な収縮を抑えます。ほかの抗不整脈薬を使用しても効果が認められない、比較的重症な不整脈に使用されます。
④Ⅳ群薬(ベラパミル、ジルチアゼム、べプリジルなど)
Ca(カルシウム)拮抗薬とも呼ばれます。Caイオンの出入口を阻害することで心筋の異常な収縮を抑えます。特に、心房と心室の伝導の中継路である房室結節を含む頻脈性不整脈に使用されます。
⑤その他の薬剤
(1) アデノシン三リン酸(ATP)製剤
アデノシン三リン酸は、動物や植物を問わず、すべての生命活動の源となるエネルギーを蓄えておく細胞内の物質です。抗不整脈薬として使用される場合、房室結節の伝導を抑制することなどにより、脈を整えます。主に発作性上室頻拍の停止に用いられますが、不整脈の診断のために用いられることもあります。
(2) ジギタリス製剤
ジキタリスはオオバコ科の植物ですが、その成分には心筋の動きをよくする作用(強心作用)があるため、18世紀後半から主に心不全に使用されてきました。安静時や夜間に活発になる副交感神経の一つである迷走神経の増強作用もあり、心拍数を抑制する効果があることから、心房細動や心房粗動に代表される頻脈性不整脈に用いられます。
ジギタリスは、ジギタリス中毒という副作用がよく知られています。投与中に、新たな不整脈、食欲不振、吐き気などの消化器症状、めまい、疲労・倦怠感、頭痛などが現れた場合は注意が必要です。
(3) マグネシウム(Mg)製剤
Mgの欠乏(低マグネシウム血症)とKの欠乏(低カリウム血症)の関係は密接です。Kの濃度は心拍に大きく関与し、高濃度であっても低濃度であっても致死的不整脈を発生させます。Mg製剤は、低Mg血症や高K血症により発生する致死的不整脈に対して用いられます。
抗不整脈薬の副作用
抗不整脈薬にも、そのほかの薬と同じように副作用があります。患者さんがもっているほかの病気や薬効によって異なりますが、それほどリスクの高くないものから、リスクの高いもの(服用による死亡例も報告されています)まで様々です。また、催不整脈作用といって、新たに危険な不整脈を生じさせることもありますから、服用に際しては必ず医師の指導にしたがってください。
【代表的な副作用】
動悸、息切れ、手足や顔のむくみ、めまい、関節痛、筋肉痛、発熱、倦怠感、吐き気、下痢、嘔吐、頭痛、腹痛、不眠、肺繊維症、甲状腺機能障害、催不整脈作用(ほかの不整脈を起こしやすくする作用)

めまいなどが起こる場合もある。医師の指示にしたがって服用することが肝要。
抗凝固薬(ワルファリン、ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバン)とは
抗凝固薬は、不整脈を抑制するための薬(抗不整脈薬)ではありません。心房細動などの不整脈により血液の流れが滞ると、心臓の中に血液の塊(血栓)を生じることがあり、それが心臓から脳に飛ぶと脳梗塞が起こります。抗凝固薬は、血液を固まりにくくする(さらさらにする)作用があるため、その予防として用いられます。
飲み忘れは脳梗塞に直結するため、非常に危険です。医師や薬剤師から指示された量を確実に内服するよう心がけてください。
【参考資料】
※心房細動の薬物療法については、下記の動画もご参照ください。
心房細動 薬による治療
https://www.youtube.com/watch?v=KRTwt_wIV3c&t=5s
(日本不整脈心電学会 youtube より)