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心房細動

 心房が1分間に不規則に300回以上電気的に興奮して、痙攣するような状態を心房細動といいます。心房の電気的な興奮は1分間に100~120回心室に伝わり、心室は速く不規則に拍動します(正常な心臓の安静時の拍動は60~100回/分)。心房細動は年齢が上がるにつれて発生率も高くなり、女性よりも男性に多いのが特徴です。日本では80歳以上の男性の4%、女性の2%が心房細動に罹患しているといわれており、80万人を超えている(100万人ともいわれています)のではないかと推測されています。心房細動では必ずしも症状が現れるとは限らないため、正確な患者数はわかっていません。
 心房細動は健康な方でもかかる恐れがありますが、高血圧、糖尿病、心筋梗塞・弁膜症などの心臓病や慢性の肺疾患のある場合はかかりやすい傾向にあります。また、アルコールやカフェインの過剰摂取、睡眠不足、精神的ストレスも心房細動の発生に影響を及ぼします。

心房細動
心房が興奮して、1分間に300回以上拍動する頻脈の状態。不規則な拍動が特徴。

症状

 症状としては、「ドキドキする」「胸が苦しい」「階段や坂を上るのがきつい」「息が切れやすい」「疲れやすい」などがあげられ、症状が現れる場合と現れない場合があります。症状が現れない場合は、血圧測定時、定期健診時の心電図検査、他の病気で医療機関を受診した時などで見つかることがあります。

心房細動でよくみられる症状
階段や坂を上るのがきつく、息切れしやすいなどがよくみられる。

診断方法

 定期健診はもちろん大切ですが、もっと簡単に心房細動を発見できるのが検脈です。検脈とは、手首に指を置き、脈が触れる箇所で脈のリズムを確認する方法です。自分で行うのが難しいようであれば、周りの人にお願いして確認してもらうとよいでしょう。脈の間隔が1拍ごとに異なっていれば(絶対性不整脈)、心房細動の可能性が高いといえます。

検脈の様子
手首に指を置いて、脈のリズムを確認する。

 しかし、これだけでは確実な診断はできません。検脈で脈の間隔がおかしいと思ったら、医療機関を受診してください。医療機関では、まず心電図検査を行います。しかし、この検査は発作時でなければ、心房細動などの不整脈を記録することができません。そのため、一時的にしか発作が出現しない(発作性心房細動)患者さんは、24時間以上の記録が可能なホルター心電図検査が有効です。発作の頻度が少ない患者さんには、発作時の心電図の記録ができる携帯型心電計が有効です。

治療の目的と方法

 治療の最大の目的は、心房細動によって引き起こされる①脳梗塞の予防、次に②自覚症状の改善、そして③心不全の予防です。症状が出ないと、「大丈夫だろう」と放っておきがちですが、たった1回の発作で脳梗塞が引き起こされることがありますので、おかしいなと思ったら放置せず、医療機関を受診しましょう。

①脳梗塞の予防

 心房細動では心房が高頻度に興奮し、ブルブル震えるような状態になります。左心房の一部には左心耳という小さい袋のような部位があります。心房細動の発症により血液の流れが滞り、左心耳に血液の塊(血栓)が発生することがあります。この血栓が心臓から流れ出て動脈に詰まると血栓塞栓症になり、脳の動脈が詰まると脳梗塞になります。脳梗塞には、主に脳の動脈硬化によるものと、心臓で発生した血栓が脳に飛んで詰まるもの(心原性脳梗塞)とがありますが、心原性脳梗塞は比較的大きな梗塞となるため、注意が必要です。寝たきりになったり、最悪の場合には死に至ったりする場合もあるため、ノックアウト型脳梗塞として恐れられています。特に高血圧や糖尿病などをもつ方は血栓症のリスクが高いことから、予防のための治療(抗凝固療法)が必要です。年齢、腎機能、持病やその治療薬、ライフスタイルなどを考慮して、適切な治療薬が選択されます。2日間以上持続した心房細動を停止させる場合には、血栓症のリスクの有無にかかわらず、一定期間の抗凝固療法が必要です。抗凝固療法については、「心臓が原因で起こる脳梗塞を予防するにはどのような方法があるの?」をご参照ください。

②自覚症状の改善

 自覚症状があり、苦痛で我慢できない場合の改善方法として、頻脈に対して脈拍数を下げる治療〔心拍数(レート)コントロール〕や脈の不整を正常に戻して維持する治療〔調律(リズム)コントロール〕があります。いくつかの治療方法を挙げますが、これらのなかから、患者さんの全身状態を考慮して、患者さんと担当医で相談しながら適切な方法を選択します。場合によっては、心房細動を許容して上手く付き合っていく方法を選択することもあります。

(1) 心拍数(レート)コントロール

 心拍数コントロールは、脈拍数を低下させる治療法です。心房から心室への興奮伝導を抑えることにより、心拍数をコントロールします。主に、内服薬や注射薬による薬物療法が行われます。それらが無効な場合、ペースメーカを植込み、心房と心室の電気的なつながりをカテーテルで断って興奮伝導を抑える治療法もあります。

(2) 調律(リズム)コントロール

 調律コントロールは、脈の不整を正常に戻して維持する治療法です。内服薬や注射薬による薬物療法、カテーテルアブレーション術、外科手術(メイズ手術)があります。

■薬物療法

 根治療法ではないため、長期間の調律コントロールができるとは限りません。また、病状あるいは副作用によって、この治療法が選択できない場合もあります。

■カテーテルアブレーション術

 カテーテルという器具を使用して心房細動の原因を取り除くことで、根治を目指す治療法です。心房細動の原因である電気的興奮(トリガー)は、主に肺静脈(肺から左心房に戻る血液の通り道)という血管から発生することが知られています。心房細動に対するカテーテルアブレーション術では、肺静脈と左心房の境付近をアブレーション(焼灼)して電気的なつながりを断ち、電気的興奮(トリガー)を肺静脈内に閉じ込めます(肺静脈電気的隔離)。カテーテルには高周波アブレーションカテーテル、クライオ(冷凍凝固)バルーンカテーテル、ホットバルーンカテーテル、レーザーバルーンカテーテルなど数種類があり、医療機関の特性や患者さんの病状によって適した方法を選択します。
 治療の効果は、患者さんの病状により大きく異なります。左心房が高度に拡大した患者さんや心房細動が1年以上持続した患者さんでは、長期的な調律コントロールは一般的に困難で、カテーテルアブレーション術を行ったとしても、肺静脈の再伝導や肺静脈以外の部位から発生する電気的興奮(トリガー)により再発する場合があります。しかし、再発により複数回にわたる施術を要する恐れがあるものの、最終的には発作性心房細動患者さんの約80~90%において、正常な脈を維持することが可能となります。

■外科手術(メイズ手術)

 カテーテルアブレーションと同様に肺静脈隔離を目的とした治療法で、主に弁膜症などのほかの心臓疾患の手術と同時に行います。

③心不全の予防

 心室細動とは異なり、脳梗塞にならない限り、心房細動が直接の死因になることはありません。しかし、心房細動は血液の循環を悪くすることから心不全を起こしやすく、息切れ、疲れ、むくみなどの症状が出る場合があります。心房細動による心不全の治療として、心拍数(レート)コントロールもしくは調律(リズム)コントロールがあげられます。詳しくは、前項の「②自覚症状の改善」をご参照ください。

【参考資料】
※下記の動画もご参照ください。
心房細動とは
https://www.youtube.com/watch?v=JIcQC2rjnA4
心房細動 カテーテルアブレーション治療
https://www.youtube.com/watch?v=Tttx8Svbqfc
心房細動 薬による治療
https://www.youtube.com/watch?v=KRTwt_wIV3c&t=5s
(日本不整脈心電学会 youtube より)

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