治療について – ペースメーカ
ペースメーカ
日本医科大学付属病院心臓血管外科 大森 裕也
1.ペースメーカって何?
心臓ペースメーカは、心臓に電気刺激を送ることで心臓を拍動させ、ある一定以上の脈拍を保つための医療機器です。ペースメーカ本体の中にはリチウム電池と電気回路が密封されており、心臓内に留置された導線(リード)と接続されます。
ペースメーカ本体は左または右の前胸部に植込まれることがほとんどですが、場合によっては腹部や他の部位に植込まれることもあります。電池は外部からの充電はできず、一般的には5年~10年ほどで交換する必要があります。
2.どんな時ペースメーカが必要になるの?
不整脈は脈が速くなるタイプの不整脈(頻脈性不整脈)と遅くなるタイプの不整脈(徐脈性不整脈)に分けられます。洞不全症候群や房室ブロックなどの徐脈性不整脈の場合、脳や他の臓器へ送られる血液の量が減り、息切れ・めまい・眼前暗黒感・意識消失などの症状を引き起こします。
このような徐脈性不整脈に対してペースメーカを植込むことになります。
3.ペースメーカの種類
心臓は心筋と呼ばれる筋肉から出来ていて、4つの部屋に分かれています。上の2つの部屋を心房、下の2つの部屋を心室と呼びます。心房または心室のどちらかを監視し電気刺激を送るペースメーカをシングルチャンバーペースメーカといい、心房・心室の両方を監視し電気刺激を送るペースメーカをデュアルチャンバーペースメーカと呼びます。ペースメーカの種類は個々の患者さんの状態・病態により決められます。
シングルチャンバーペースメーカ:
リードは心房または心室のどちらかに留置される。
デュアルチャンバーペースメーカ:
リードは心房と心室の両方に留置される。
4.ペースメーカの植込み方法
ペースメーカ植込みは、ほとんどの場合局所麻酔にて施行可能ですが場合により全身麻酔下に行うこともあります。基本的には左または右前胸部皮下に約4~5cmの切開を行い、皮膚の下にペースメーカが入る部屋(ペースメーカポケット)を作り、このポケットの中に本体を収納します。1本または2本のリードをX線透視を見ながら心臓内へ留置します。ポケットに近い鎖骨下静脈と呼ばれる静脈を介してリードを心臓内へ留置するため、新たな皮膚切開は必要ありません。このリードと本体を接続後ポケット内に本体を収納します。手術時間は約1~2時間です。
また、心臓手術(開心術)の際に同時にペースメーカを植込む場合や、静脈からリードを挿入できない場合には、心筋電極と呼ばれるリードを心臓の外側(心外膜)に直接縫い着ける方法もあります。
5.合併症に関して
徐脈性不整脈のために眩暈などの自覚症状がある方は、ペースメーカを植込むことで劇的に症状が改善する一方で、僅かながら合併症が起こることが知られています。主な合併症を表にまとめました。中でもペースメーカ感染は最もやっかいな合併症で、悪化すると感染が全身に及んでしまうこともあります。感染の場合、本体およびリードを抜去する必要がありますが、長年血管の中に留置されたリードは癒着のために簡単には抜けません。
最近ではレーザーを使ったリード抜去が普及しつつありますが、場合によっては開胸による抜去が必要となることもあります。大切なのは早期発見で、ペースメーカ植込み部周辺の疼痛・発赤・変色・浸出液などの症状がある場合は直ちに主治医の先生と相談してください。
表:ペースメーカ植込みに関する合併症
合 併 症 | |
---|---|
術中・術後早期 | 術後出血,皮下出血,感染,気胸,血胸,リード移動,血管損傷,心室・心房穿孔 |
術後遠隔期 | 感染,皮膚圧迫壊死,リード断線,リード皮膜損傷 |
6.植込み後の生活は?
ペースメーカ植込み後は普段と変わりない生活を送ることができますが、いくつかの注意事項があります。
●ペースメーカ外来・ペースメーカ手帳
ペースメーカはリチウム電池にて駆動していますので徐々に電池は消耗します。ペーシング出力やペーシング率などの違いにより、患者さんによって電池寿命は異なります。重要なのは3~6ヵ月おきに定期的なペースメーカチェックを行うことです。電池残量が少なくなってきたら余裕をもって電池交換を行うことになります。電池交換を行う場合、リードはそのまま使用し本体部分だけを交換することになります。通常30分~1時間程度の局所麻酔にて交換します。施設によっては外来手術も可能です。
ペースメーカ植込み後は外出時や医療機関受診の際、常にペースメーカ手帳を携帯してください。ペースメーカ手帳には病気の情報やデバイスの植込み記録・設定など様々な情報が書かれていますので、緊急事態の際適切な処置を受けることができます。
●スポーツ・就労など
ペースメーカを植込んで1~3ヵ月経つとリードがほぼ固定されるので、同年代の方が行っている程度のスポーツならほぼ可能です。ただし上半身を激しく動かすスポーツは避けたほうが無難でしょう。また、患者さんにより基礎疾患(心筋梗塞や心筋症など)が異なりますので、まずは主治医の先生と相談してください。就労に関しても同様で作業内容によっては就労制限があります。後述する電磁干渉にも関連しますが、職場環境は重要で場合により職場の電磁環境調査を行うこともあります。
●自動車などの運転
ペースメーカを植込んだ方は、植込み後めまいや失神などがなければ自動車運転の制限はありません。ただし植込み型除細動器(ICD)やICDに両心室ペーシング機能の付いたデバイス(CRT-D)を装着した方は基本的には自動車運転はできません。
自動車などの運転に関する詳細は以下のリンクを参考にしてください。 「ICD・CRT-D植込み後の自動車の運転制限に関して(日本不整脈学会HP)」
●電磁干渉
磁力・電磁波・高電圧などによりペースメーカが影響を受けることがあり、これを電磁干渉と呼んでいます。MRI検査は非常に強い磁場を発生させますので、ペースメーカを植込んだ方はMRI検査はできません。その他、IH調理器や携帯電話など様々な機器がペースメーカに影響を与える可能性があります。これらの機器を知っておくことは重要ですが過度に心配する必要はありません。
電磁干渉に関する詳細は以下のサイトを参考にしてください。
http://www.jadia.or.jp/images/poster/wide/
2011.pdf
(PDF: 日本デバイス工業会)