心臓の病気について – 不整脈 – 発作性上室性頻拍
発作性上室性頻拍
大阪大学大学院医学系研究科循環器内科学 奥山 裕司
1.始めに
突然脈拍数が速くなり動悸を感じる不整脈で最も多いのが発作性上室性頻拍です。ほとんどの場合、急を要する治療を必要としませんが、繰り返し症状が現れる場合や生活に支障が出るほど強い症状が現れる場合には何らかの治療(薬による予防、カテーテル治療等)を行う必要があります。
2.発作性上室性頻拍とは
正常な状態では、洞結節(電気信号の発生場所)から発生した電気信号は一方通行で心臓の端々まで伝わって行き消えてしまいます。次の脈は新たに洞結節から出てきた電気信号によって生じます。ところがなんらかの原因で異常な電気回路ができてしまったり、先天的に余分な電気経路があったりすると、突発的に電気信号の空回りが始まることがあります。
原因となる回路がある場所は、大きく分けて3つあります。心房と心室をつなぐ結び目にあたる房室結節付近に回路がある房室結節回帰性頻拍(図中①)が最も多いものです。また正常では心房と心室をつなぐ電気経路は1本だけですが、それ以外に先天的に電気経路が別にできてしまっている場合があります。頻脈発作が出ていない時に特徴的な心電図の波形が出るWPW症候群と呼ばれるものもその1つです。この場合、正常な電気経路と異常な電気経路を使って心房と心室の間を電気信号が大きく回る房室回帰性頻拍(図中②)というものが起こります。これが2番目に多いものです。
それ以外の場所で電気信号が小さく回るものや異常な電気信号を一部の心筋細胞が発生させてしまう心房頻拍(図中③)というものがありますが、発作性上室性頻拍の1割程度を占めるのみです。
3.発作性上室性頻拍の症状
「あっ、今」と言えるくらい突然始まる動悸症状が典型的です。動悸は自分の心臓が動いていることを“不快感を持ってハッキリと自覚すること”です。
動悸の自覚の程度は患者さんごとで異なります。また特に動悸が始まった直後に血圧が下がり、ふらつきやめまいを感じることもあります。
4.発作性上室性頻拍の診断
突然始まる動悸症状で、その動悸が規則正しい(心臓が一定の短い間隔で動いているように感じる)場合に発作性上室性頻拍が疑われます。症状が出ている際の心電図記録ができれば診断が確定できますが、自分できることで診断の最も助けとなるのは“検脈”です。利き手の人差し指と中指で、反対側の手首のところで脈拍を触れながら1分間に何回拍動するか数えてください。
10秒間数えて、6倍、15秒数えて4倍などの方法で1分間の数の概略を掴んでください。発作性上室性頻拍では、規則正しくやや弱い脈拍が1分間に140~180回程度数えられることが典型的です。
5.発作性上室性頻拍の治療
①頻拍発作時の処置
患者さん自身で可能な処置としては、息こらえ(呼吸を止めた状態で、強く胸・腹に力を入れる)、冷たい水を飲むなどが安全に行えるものです。比較的簡単にすぐできるのでやってみると良いでしょう。
強い動悸や不快感がある場合は緊急に外来を受診し、点滴治療などで頻拍を停止させます。
抗不整脈薬*という薬をゆっくりと注射する方法が一般的です。少し気分が悪くなる場合がありますがアデノシンという薬は即効性があり、循環器専門医はしばしば処方します。
肺に水がたまって呼吸困難を伴っているような場合には電気ショック治療で頻拍を止めることもあります。
*抗不整脈薬:不整脈の停止や予防のために特別に開発された薬で内服や点滴用のものがあります。
②頻拍発作の予防、根治
繰り返し発作がある場合には予防を目的として抗不整脈薬の定期内服をします。最初の薬で概ね5~7割くらいの方に効果がありますが、効果が不十分な場合や副作用などで続けられない場合には別の抗不整脈薬を試すことができます。ただし最初のうち効果があった薬もずっと有効とは限らず、常に再発を心配しないといけない上、薬を止めるとまた元の状態に戻ると考えられますので、カテーテル治療が発達した現在では長期間に渡って予防的内服を続けている人は減ってきています。
1990年代に開発された電極カテーテルを使った手術(カテーテルアブレーション)が現在最も勧められる治療です。電極カテーテルは先端に小さな電極をくっつけた細長い管で、血管を通して心臓の中まで入れ、電気信号を直接記録したり、人工的な電気刺激を送り込んだりします。電気刺激で日ごろの頻拍発作が誘発できれば、原因となっている異常な電気回路を探すことができます。ほとんどが、図中①のように房室結節の辺りで電気信号が小さく空回りするものか、図中②のように大きく空回りするものです。異常な電気回路に“高周波”という電流を流して60℃程度に熱して治療します。約95%程度で治療効果があり、症状の再発は多くても10%程度までです。手術は局所麻酔で平均的に2時間程度かかります。
なかなか日ごろの頻拍発作が誘発できない場合やカテーテルが届き難い場所に異常な電気経路がある場合にはそれ以上の時間がかかることもあります。
カテーテル治療の合併症は心臓の周りに出血する心タンポナーデ、正常な電気回路に傷が付く房室ブロック、脳梗塞などがありますが、合併症の発生は合計で1%以下とされています。心タンポナーデの場合には溜まる血液量などによっては太い針を刺して血を抜き取る治療や稀に胸を開いて血止めをする必要が生じます。房室ブロックとは正常な伝導路に傷が付いてしまい、脈拍数が遅くなりすぎた状態です。房室結節回帰性頻拍(図中①)や副伝導路の場所が正常伝導路の近くを走っている場合に起こる可能性がある合併症です。ブロックの程度が強ければペースメーカの植込みを必要とします。この場合の脳梗塞は主に左心房や左心室にできた血栓という血の塊が流れて行って脳血管を詰めてしまうことでおこるものです。動脈の血が流れている側の心臓の部屋に異常な伝導路があったり、左心房に心房頻拍の起源がある場合に発生する可能性があります。脳梗塞では脳内科の先生に協力してもらって詰まった血管を通すような治療が行える場合もありますが、後遺障害を残してしまうこともごく稀にあります。これらの合併症は手術中~術後数日の間におこります。その間に何もおこらなければ合併症についての心配をする必要はありません。