日本不整脈心電学会 – 市民の皆様へ

HOME > 新版! 不整脈ってなあに? > 9.不整脈の治療法にはどのようなものがあるの? > 薬を用いないその他の治療法 > ペースメーカ植込み術とは?

ペースメーカ植込み術とは?

 不整脈は脈が速くなる不整脈(頻脈性不整脈)と遅くなる不整脈(徐脈性不整脈)の、大きく二つに分けられます。徐脈性不整脈になると、脳やほかの臓器に送られる血液量が減るため、息切れ・めまい・眼前暗黒感・意識消失などの症状を引き起こします。ペースメーカ(pacemaker)植込み術は徐脈性不整脈の患者さんに行われ、患者さんの心臓にリードと呼ばれる電線を通して電気刺激を加えることで心臓を拍動させ、ある一定以上の脈拍を保つように調整します。徐脈性不整脈は、心臓の発電所である洞結節が不調のために起こる洞不全症候群と、心房と心室の間の電気の伝導が悪くなる房室ブロックがあります。

ペースメーカの種類

 心房または心室のどちらかを監視して電気刺激を送るペースメーカをシングルチャンバーペースメーカ、心房および心室の両方を監視し電気刺激を送るペースメーカをデュアルチャンバーペースメーカと呼びます。そのほか、近年では小さなペースメーカ本体を右心室に直接植込む、リードレスペースメーカという機器が開発されました。どの種類を使用するかは、個々の患者さんの状態や病態によって決定されます。

シングルチャンバーペースメーカ
リードを心房または心室のどちらかに留置する。
デュアルチャンバーペースメーカ
リードを心房と心室の両方に留置する。

■リードレスペースメーカとは?

 小さな本体の先端に電極がついている構造で、リードが本体と一体化しています。本体は3cm以下と小さく、重さも1.75gと非常に軽量です。足のつけ根にある大腿静脈と呼ばれる太い静脈からカテーテルを挿入して本体を心臓まで運び、心室筋に植込みます。ペースメーカの先端に虫の触覚のような形状記憶の針金がついており、これが心筋に刺さることによって固定されます。
 糖尿病治療の透析中で腕にシャント(透析を行うために腕の動脈と静脈をつなぎ合わせて作成された血管)があるために鎖骨下静脈からリード線を挿入できない患者さんや、何かしらの原因で鎖骨下静脈が閉塞していて通常のペースメーカが入れられない患者さんに対して植込まれます。現時点では、心室への植込みを目的に設計されているため、シングルチャンバーのみとなっています。また、現在使用可能な機種では一度植込むと抜き取るのは困難なため、電池が消耗しても交換することができず、追加で植込むことになります。若年の患者さんの場合には、一生のうちにいくつものペースメーカが心臓内に入ることになるため、植込みに際しては年齢も考慮する必要があります。

リードレスペースメーカ
容量:1㏄、重量:1.75g、長さ:25.9㎜

手術方法

 通常、ペースメーカ植込み術は局所麻酔のもとで行われます。左または右前胸部皮下を約4~5cm切開して皮膚の下にペースメーカが入るポケット(ペースメーカポケット)を作り、そのなかに本体を収納後、心臓内に留置された1本または2本のリードと本体を接続します。手術時間は約1~2時間です。
 ペースメーカ本体は、左または右の前胸部に植込まれることがほとんどですが、場合によっては腹部や他の部位に植込まれることもあります。
 リードはポケットに近い鎖骨下静脈と呼ばれる静脈の中を通して心臓内に留置するため、新たな皮膚切開の必要はありません。ほかの心臓疾患の手術と同時に、ペースメーカを植込む場合には、リードを心臓の外側(心外膜)に直接縫いつけることもあります。

ペースメーカ植込み術
鎖骨下静脈と呼ばれる静脈の中を通して、リードを心臓内に留置する。

合併症

 めまいなどの自覚症状がある患者さんは、ペースメーカを植込むことで劇的に症状が改善しますが、わずかながら合併症を引き起こす恐れがあります。なかでも、ペースメーカ感染(本体やリードに付着した細菌による感染症)は最もやっかいな合併症で、悪化すると感染が全身に及ぶ恐れがあります。感染した場合には、ペースメーカ本体のみならずリードも抜き取る必要がありますが、血管の中に長期間留置されたリードは癒着している可能性が非常に高く、簡単に抜き取ることはできません。場合によっては、開胸手術が必要になることもあります。感染の早期発見が重要ですので、ペースメーカ植込み部周辺の疼痛・発赤・変色・浸出液などの症状が出た場合は、直ちに主治医の先生に相談してください。

【ペースメーカ植込みに関する主な合併症】
術中・術後早期 術後出血、皮下出血、感染、気胸、血胸、リード移動、血管損傷、心室・心房穿孔
術後遠隔期 感染、皮膚圧迫壊死、リード断線、リード皮膜損傷

ペースメーカ植込み後の管理について

 ペースメーカはリチウム・バナジウムなどの電池が動力源です。ペーシング出力やペーシング率などの違いにより電池寿命は異なりますが、定期的(6ヵ月~1年ごと)にペースメーカをチェックする必要があります。電池残量が少なくなってきたら、余裕をもって電池交換を行います。電池交換を行う場合、通常リードはそのまま継続使用して本体部分のみを交換しますが、リードが経年劣化すると断線する可能性もあるため、リードの追加あるいは交換が必要な場合もあります。電池交換のみであれば、局所麻酔のもとで通常30分~1時間程度で終了します。
 最近では、自宅にいながらペースメーカの状態を観察できる、遠隔モニタリングが可能なペースメーカが主流になりつつあります。遠隔モニタリングにより、本体やリード線の状態(断線や不具合、電池消耗など)については外来受診しなくても確認できるようになりました。また、遠隔モニタリングが別の不整脈の早期発見につながる場合もあります。このように、次回の外来時まで患者さんの状態を観察することで、早期発見・早期対処が可能となるため、遠隔モニタリングによるペースメーカの管理は推奨されています。遠隔モニタリングの使用については、医師と相談して決定してください。

ペースメーカ植込み後の日常生活について

 ペースメーカ植込み後は普段と変わらない生活を送ることができますが、いくつかの注意事項があります。

➀常にペースメーカ手帳の携帯を

 ペースメーカ植込み後は、常にペースメーカ手帳を携帯するようにしてください。ペースメーカ手帳には病気の情報やデバイスの植込み記録・設定など、様々な情報が記載されているため、緊急事態の際に適切な処置を受けることができます。

②スポーツと就労、旅行について

 ペースメーカを植込んでから1~3ヵ月経つとリードがほぼ固定されるため、通常のスポーツを行うことに問題はありません。ただし、上半身を激しく動かすスポーツは避けたほうがよいでしょう。また、心筋梗塞や心筋症など、ほかの心臓病を合併している方はスポーツを禁じられる場合もありますので、医師に相談してください。就労に関しても同様で、作業内容によって制限がありますので、医師に相談してください。旅行は問題ありませんが、航空機に搭乗する際に、ペースメーカが金属探知機に反応する場合があります。空港の係官にペースメーカ手帳を提示すればトラブルを避けることができますので、ペースメーカ手帳の携帯を心がけてください。

③自動車の運転について

 ペースメーカを植込んだ患者さんは、植込み後にめまいや失神などがなければ自動車運転の制限はありません。

④電磁干渉について

 磁力・電磁波・高電圧などにより、ペースメーカが影響を受けることがあります。MRI検査は非常に強い磁場を発生するため、MRI非対応型のペースメーカを植込んだ患者さんは、MRI検査を行うことはできません。そのほか、電気自動車の充電器、IH調理器、携帯電話などの様々な機器がペースメーカに影響を与える可能性がありますが、過度に心配する必要はありません。ただし、職場環境は重要なため、職場の電磁環境調査をお願いする場合もあります。安心して就業できるように、上司とよく相談のうえで対応してください。

【参考資料】
※電磁干渉に関する詳細は下記をご参照ください。
http://www.jadia.or.jp/images/poster/wide/2011.pdf
(日本デバイス工業会HPより)

心房細動の患者様とご家族の皆様へ
心房細動をみつけるために
TOP