日本不整脈心電学会から市民の皆様へ
AEDで命を救うための緊急提言
毎日180人を超える方が心臓突然死で亡くなっています。突然の心停止に陥った人を救うには、現場に居合わせた市民が素早くAED(自動体外式除細動器)を使って電気ショックを与えることがカギです。ところが後述するようにAEDがあったにもかかわらず、使われなかったという悲しい出来事がありました。
目の前で人が倒れたとき、呆然と立ち尽くすことなく、いかに迅速かつ的確に動けるか、AEDを使えるかがその人の生死を決します。一人でも多くの命を救うために、勇気を奮ってAEDを活用する「とっさの対応」をしてください。
市民でもできる「とっさの対応」
目の前で突然、人が倒れたら・・・
- まず、心臓が止まったのかもしれないと疑い、声をかける
- 反応がなければ「119番通報を」、「AEDを取ってきて」と周囲に頼む
- 呼吸がないか、いつもと違う呼吸をしていたら即座に救命処置を開始!
・強く、速く、絶え間のない心臓マッサージ(胸骨圧迫)
・AEDが届いたら電源を入れ、あとは音声指示に従って電気ショック
・AED使用後も救急隊に交代するまでひたすら心臓マッサージ
ポイント:迷ったり、判断に困ったら、AEDの電源を入れ指示に従う!
心臓突然死とAED
心臓突然死のほとんどが心室細動という突然の不整脈によって起こります。この不整脈は数分以内に電気ショックという処置を施さなければ治せませんが、電気ショックはAEDを使えば、素人でも行うことができます。心臓が原因の心停止で倒れる人を目撃した市民が、周囲にあるAEDを使って電気ショックを行えば、45%の人を救命できることがわかっています。でも現実には倒れる人を目撃すると、パニックに陥ってしまうことが少なくありません。
明日香さんの死
2011年9月、さいたま市の小学校で6年生の桐田明日香さんが長距離走の直後に倒れ死亡する、という事故がありました。検証の結果、明日香さんが倒れた直後に、「けいれん」や、「あえぐような呼吸」があったために、教員らは心臓が止まっているとは思わずに救急車を待つだけで、校内にあったAEDを使わなかったことがわかりました。心停止の直後にはこのように紛らわしい兆候をみることがあり、そんな知識のない素人の対応を迷わせたのです。とはいえ、貴重な命が失われてしまったことはまぎれもない事実です。
この事故の反省をふまえ、さいたま市教育委員会は「体育活動時等における事故対応テキスト:ASUKAモデル」を作成しました。しかしこのような悲劇はさいたま市だけでなく、全国どこでも起こりうることです。
間違ってもいいから・・・
目の前で人が倒れたら、最悪の可能性をまず思い浮かべること、それが初めの一歩です。結果として心停止でなければ、良かった、で済みます。間違ってもいいのです。
バタッと倒れることは、めまい、失神、てんかん、脳卒中などでも起こります。ですが対応に「秒」を争うのは心停止だけです。倒れた瞬間を目撃した際に、意識がなければ、すぐに119番通報とAEDの要請をすべきです。あとで意識が戻れば、それはそれで構いません。心停止の可能性があるのに「少し様子をみる」「倒れて生じた怪我の手当をする」「担架で運ぶ」とのんびりしている余裕はありません。心停止であれば1分遅れると1割ずつ、助かる可能性が減っていき、救急車が到着するまで放置すればほとんど助かりません。間違ってもいいから秒単位で動くのです。
意識がなくても、規則正しい、通常の脈や呼吸があれば、心停止ではありませんが、脈や呼吸を確認することは決して易しくありません。迷って時間を費やすこともマイナスですし、本当は脈や呼吸がないのにあると誤った判断をしてしまう危険性さえあります。目の前で卒倒し、いつもと様子が違う呼吸やけいれんを認めた場合、あるいは判断に困ったときには、「心停止」と考えて行動に移すことが重要です。
そこで役に立つのがAEDです。AEDは電気ショックを加えるための治療器具ですが、同時に診断器具でもあります。わからなければまず、AEDに電気ショックが必要なのかどうかを診断してもらう、という使い方ができます。AEDは音声で使い方を指示してくれますから、ただそれに従えばよく、電気ショックの必要がない場面では「必要ありません」と教えてくれます。
AEDが到着するまではひたすら、心臓マッサージです。胸の真ん中にある硬い骨の上を手のかかとの部分で胸が5センチ以上沈むくらいに強く、1分間に100回以上の頻度で押し続けます。これは倒れた人が嫌がるような仕草を示さない限り、電気ショック後も続けます。10秒と休んではいけません。
人工呼吸は、水におぼれた、直前に窒息した、喘息発作で苦しがっていた、といった特殊な状況ではできるに越したことはありませんが、それ以外のほとんどの場面では心臓マッサージのみで構いません。
万一救えなくても、それで責任を問われることはありません。何もしないより、少しでもできることをした方が、はるかにプラスになります。それで命を救えるかもしれないのです。
もちろん、日頃から講習会や実地訓練に参加して非常時に備えていると、さらに自信がつくものです。AEDを積極的に活用して皆で尊い命を救いましょう。