総論
不整脈には様々な種類があり、その治療方法も様々です。ストレス・睡眠不足・飲酒などの生活習慣がきっかけになっている場合は、それらを改善すれば症状が消失することもあります。しかし、実際には薬を使う薬物療法、薬を使わない非薬物療法が行われることも多いです。患者さんの状態(心臓の機能やその他の病気の有無など)・症状・不整脈の種類により、どの治療方法が適しているのかが、ガイドラインに定められています。医師はガイドラインを参考にしながら、患者さんの状態や希望なども考慮して治療方法を決定します。
薬物療法
不整脈を抑える薬を抗不整脈薬と呼びます。現在、日本では30種類近くが使用されており、Na(ナトリウム)チャネル遮断薬(I群薬)、β遮断薬(Ⅱ群薬)、K(カリウム)チャネル遮断薬(Ⅲ群薬)、Ca(カルシウム)拮抗薬(Ⅳ群薬)の4群に分類されます。
心臓の電気は、イオン(Na、K、Caなど)が心臓の細胞を出たり入ったりすることによって発生します。頻脈性不整脈は心臓の電気が正常ではない場所から発生したり、心臓内を勝手に回ってしまったりして起こります。この電気的な異常を抑え込む作用を持つのが、抗不整脈薬です。抗不整脈薬はイオンの出入りを調整して、心臓の電気を抑え込もうとします。一方で副作用として、脈が遅くなりすぎたり、心臓の収縮を弱めたり、異なる不整脈を誘発したりする場合もあります。そのため、患者さんの状態、不整脈の種類や症状に応じて使い分けられます。
そのほか、心房細動という不整脈に対し、抗凝固薬を内服することもあります。心房細動では脳梗塞を起こしやすいことが知られています。抗凝固薬は血液をサラサラにして、脳梗塞を予防する作用をもっています。

薬は患者さんの状態、不整脈の種類や症状に応じて使い分けられる。
非薬物療法
非薬物療法にはいくつかの種類があり、それぞれの患者さんに適した治療方法が選択されます。
■カテーテルアブレーション術
正式には経皮的カテーテル心筋焼灼術と呼ばれ、心房細動、心房粗動、発作性上室頻拍、心室頻拍、心室期外収縮など、多くの不整脈治療に用いられます。心臓の筋肉は火傷をすると、電気を通さなくなります。この特徴を活かして、不整脈の発生源や不整脈の回路を、カテーテル(医療用に用いられる細い管)を用いて熱で焼く、もしくは凍らせて小さな火傷をつくることにより、電気の発生や通り道を調整します。
■植込み型除細動器(ICD)植込み術
脈が速くなる頻脈性不整脈のうち、心室細動や心室頻拍に対して行われる治療方法です。心室頻拍や心室細動は、一度の発作で命を落とすことがあります。一度目の発作では命を落とさなくても、再発したときに命にかかわることもあります。そのような恐れのある患者さんに対して、不整脈発生時に自動的に電気ショックを与えて、電気の流れを正常に戻す機器がICDです。実際にはまだ発作を起こしていないけれども、発作を起こすリスクの高い患者さんに対して行われる場合を一次予防、発作を起こした患者さんに対して再発を予防するために行われる場合を二次予防と呼びます。現在のところ、ICD植込み術は心室細動に対する最も有効な治療方法とされ、年間3,000人ほどの患者さんに対して行われています。
【PLUS!】ICDと同じ機能をもつ機器……自動体外式除細動器(AED)と着用型自動除細動器(WCD)
ICDと同じように電気ショックを与える機能をもつ機器として、自動体外式除細動器(AED)と着用型自動除細動器(WCD)があります。いずれも体内に植込むものではありません。AEDは倒れている人の胸に、救助者が電極パッドを貼り付け、ボタンを押して電気ショックをかけます。このとき、電気ショックをかけるか、かけないかの判断はAEDがしますので、安心して電気ショックをかけてください。WCDはベスト型といわれますが、チョッキに電極パッドがついており、心室細動が起こると自動で電気ショックがかかります。WCDは何らかの理由で直ちにICD植込み術が行えない患者さんや、一時的に ICD を体外に取り除く必要のある患者さんなどに用いられます。
■ペースメーカ植込み術
脈が遅くなる徐脈性不整脈である、洞不全症候群や房室ブロックの患者さんに対して行われる治療方法です。ペースメーカという名前からもわかるように、心臓の筋肉に電気刺激を与えて異常な脈拍を正常に戻す機器です。自覚症状のある患者さんや、めまい・気を失うなどの症状のある患者さんのほか、そのような症状を起こす可能性の高い患者さんにも植込むことがあります。現在、年間4万人以上の患者さんに対して植込み術が行われています。
■心臓再同期療法(CRT)
心臓の左心室の中の電気の流れが遅れて、右心室と左心室の収縮のタイミングがずれて効率よく血液を送り出せなくなる場合があります(心不全)。そのような場合に、ペースメーカを植込み、右心室と左心室の心筋に電気刺激を与えて、収縮のタイミングを調整する治療方法です。
■外科手術
心房細動や心室性の不整脈(心室細動・心室頻拍)に対して外科手術を行うことがあります。特に弁膜症などの開胸手術を行う際に、同時に心房細動に対して根治手術を行うことがあります。これをメイズ手術といいます。また、カテーテルアブレーション術後にもICDの作動を繰り返すような難治性の心室性の不整脈に対しても、外科手術が行われることがあります。

心房細動や心室性の不整脈に対して行う場合がある。