外科手術とは?
不整脈に対しては、一般的に内科医による手術が行われます。カテーテルアブレーション術のみならず、これまで外科医がかかわることの多かったペースメーカ植込み術も内科医によって行われるようになってきました。しかし、心房細動と心室細動、心室頻拍に関しては、外科手術が行われる場合があります。また、内科医が行う手術でも、外科医のバックアップ体制が整っていないとできない手術は数多くあります。
心房細動の外科的治療~メイズ手術とは?~
心房細動は、心臓の上部に位置する心房部分が不規則に脈打つ不整脈で、日本では80歳以上の男性の4%、女性の2%が心房細動に罹患しているといわれています(「心房細動とは?」参照)。心臓弁膜症の患者さんに高頻度に合併しますが、とりわけ僧帽弁膜症の患者さんに多く見られ、外科手術を要する僧帽弁膜症の半数以上に、慢性化した心房細動が合併しているといわれています。
心房細動の治療には、薬物療法のほか、カテーテルアブレーション術、ペースメーカ植込み術、外科手術といった非薬物療法が行われます。カテーテルアブレーション術は、カテーテルという細い管を用いて行われるため、体への負担が小さく、その効果も認められています。ただし、心房細動が発作的に起こる初期の段階であれば治療成績は良好ですが、慢性化した場合やその他の心臓疾患(前述の僧帽弁膜症をはじめとする弁膜症、心筋梗塞など)を合併している場合の治療成績は下がります。こうした患者さんに対して行われるのが外科医によるメイズ手術です。
メイズ手術とカテーテルアブレーション術の基本原理は同じです。簡単に説明すると、まずアブレーションと同様に肺静脈の電気的な隔離を行います。さらに、心房細動を起こりにくくするために、高周波エネルギーや冷凍凝固法を用いた特殊な装置を使用して、心房に電気的な隔離線(絶縁線)を作成します。メイズ手術の成績は慢性化した心房細動に対しても良好とされ、手術から10年程度経過しても約85%は再発しません。
また、不整脈以外の心疾患の外科手術の際に、術前の検査で発作性の心房細動が見つかる場合があります。このとき、同時にメイズ手術が行われることがあり、発作性の心房細動の消失率は約95%と、慢性化した心房細動の消失率よりも高くなります。心疾患の手術後に心房細動が発生すると心機能が低下しやすくなることから、メイズ手術を同時に行うことは、術後の心機能維持のためにも重要と考えられています。
メイズ手術の合併症
メイズ手術の合併症として、心房細動以外の不整脈の発生があります。心房細動発生から長時間経過すると、心房自体が組織学的に変化して電気の連絡路に異常をきたす割合が増えることや、そもそも電気を発生する力が落ちてしまうことに関連すると考えられています。新たに発生する不整脈には徐脈と頻脈がありますが、これらの不整脈の症状や程度が強ければ、それぞれに対する治療を追加で行います。
致死性心室不整脈の外科的治療
心室頻拍や心室細動といった致死性心室不整脈の患者さんに対しては、体内からの電気ショックが可能な植込み型除細動器(ICD)の植込み術が一般的です。ところが、薬物療法やカテーテルアブレーション術などの追加治療を行っても持続的に致死性の不整脈が起こる場合や、ほかの心臓疾患(主に心筋梗塞に関連するもので、左室瘤や心室内血栓など)を合併するなどの特殊な場合には、外科手術を行うことがあります。
致死性心室不整脈の原因は様々なため、手術前に検査を十分に行って原因を検索した上で、ほかの方法(薬物療法、カテーテルアブレーション術、ICD植込み術など)では命を守ることが難しいと判断される場合に施行します。

慢性化した心房細動やその他の心臓疾患を合併している場合、持続的な致死性心室不整脈では外科手術が行われる場合もある。