遺伝性不整脈の臨床 from bench to bedside
|
堀江 稔 |
滋賀医科大学 呼吸循環器内科 |
|
清水 渉 |
国立循環器病研究センター 心臓血管内科 |
|
|
ヒトゲノムプロジェクトの完遂と技術革新により、疾患原因の遺伝子レベルでの解明が進み、循環器疾患についても多くの原因遺伝子が同定されている。原因遺伝子の解明は、確定診断に役立つばかりでなく、病態の解明による理論的な治療法選択や新しい治療法の開発あるいは疾病予防の確立につながる。例えば致死性不整脈を引き起こす遺伝性不整脈である先天性QT延長症候群(LQTS)では、遺伝子診断率は50〜70%と高く、すでに13個の原因遺伝子(遺伝子型)が同定され遺伝子型特異的な治療や生活指導が実践されていることから保険診療が承認されている。遺伝性不整脈にはこの他にも、Brugada症候群、進行性心臓伝導障害 (PCCD)、カテコラミン誘発性多形性心室頻拍 (CPVT)、QT短縮症候群 (SQTS)などが含まれる。また、下側壁誘導心電図でJ波を認める早期再分極症候群 (ERS)という新しい致死性疾患群でも遺伝子変異が報告されている。一方で遺伝子診断の技術革新にはめざましいものがあり、新たな原因遺伝子の同定や各疾患の発症に関与する遺伝的修飾因子の同定に、Exome解析などの新たな遺伝子解析アプローチ法が導入されている。さらに山中教授らによって発見されたヒト皮膚細胞から作製できる多能性を有するヒトiPS細胞は、繰り返して十分な量の心筋細胞を誘導することができ、従来にない観点からの疾患原因の解明や治療法の開発を可能とし、先天性LQTS患者などの遺伝性不整脈にも応用されている。本シンポジウムでは、遺伝性不整脈に関する最新の知見とともに新しい遺伝子解析アプローチ法を発表していただき、遺伝性不整脈における遺伝子診断の現状と今後の展望について論議したい。