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治療について – 不整脈の外科手術

不整脈の外科手術

広島大学病院心臓血管外科 今井 克彦

1.心房細動の外科治療

 心房細動という不整脈は、心臓の電気現象の上流にある心房部分がまったく不規則に脈打つ不整脈で、70歳以上の高齢者の約10%に見られる頻度の高い不整脈です。
 この不整脈は、心臓内に血栓をできやすくして脳梗塞をおこしたり、心臓の機能(収縮力など)を低下させて心不全を引きおこしたりすることが知られています。心房細動は、心臓弁膜症によく合併しますが、その頻度は僧帽弁膜症に多く、外科的に手術を必要とする僧帽弁膜症の半数以上に心房細動、特に慢性化した心房細動を合併しているといわれます。
 「心房細動の治療」には、薬物的治療(内服薬や注射剤)や手術(カテーテルアブレーションペースメーカ・外科手術)などがありますが、

薬で心房細動を治療して(停止して)これを維持出来る(つまり、心房細動が起こらない状態を長く続ける)確率は電気ショック(直流除細動)を一緒に行ったとしてもあまり高くないため、カテーテルアブレーションや外科手術もよく行われています。
 カテーテルアブレーションは、カテーテルで行われる治療であるため体に負担の小さい手術といえますが、慢性化した心房細動や心疾患(例えば弁膜症や狭心症・心筋梗塞など)の合併がある場合にはあまりよい治療法となりません。
 このため、このような症状の患者さんには、他の合併した心疾患の外科的治療と同時に心房細動を治療する手術(一般的にメイズ手術といいます)が行われます。

メイズ手術の方法・成績・合併症

 メイズ手術とカテーテルアブレーションは、治療の基本的原理は同じです。これは簡単に言えば、心房上に心房細動をおこり難くするための電気的な隔離線(絶縁線)を作成することにありますが、通常この隔離線は高周波エネルギーを用いた特殊な装置で作成されます。
 メイズ手術は治療方法として良好であり、手術から10年程度経過しても約85%の方で心房細動が消失しています(図1)。発作性心房細動の場合、約95%の症例で消失しますが、慢性の心房細動では90%程度です。心房細動が手術の後も残存すると心臓の機能が低下する可能性もあるため、合併した心臓の疾患と同時にメイズ手術を行うことは、術後の心臓機能維持にも重要です。
 メイズ手術の合併症としては、心房細動以外の不整脈が新たに発生する場合があることです。これは、特に心房細動の経過時間が長い方では、心房自体が組織学的に変化をおこしてしまい、心房自体の電気を発生する力が落ちてしまうことに関連すると考えられています。

新たにおこる可能性がある不整脈には、徐脈(脈が遅くなる)と頻脈(脈が速くなる)があります。これらの不整脈の程度が強ければ、それぞれに対する治療が追加で行われることがあります。

図1 心房細動手術(メイズ手術)の成績

図1 心房細動手術(メイズ手術)の成績
Weimar, Cox, Damiano ら. Circ Arrhythm Electrophysiol. 2012;5:8-14. より改変

2.心室性不整脈の外科治療

 心室頻拍や心室細動といった致死性心室性頻拍症の患者さんには、多くの場合体内から電気ショックを行うことの出来る植込み型除細動器(ICD)という装置の植込みによって致死性不整脈から命を守ることができます。
 ところが、薬物治療やカテーテルアブレーションなどの追加治療を行っても持続的に不整脈がおこる場合や、他の心臓疾患(主に心筋梗塞や左室瘤、心室内血栓など)を合併するなど特殊な場合には、外科的に手術で治療を行うことがあります。
 致死性心室性頻拍症に対する手術治療は、その原因がいくつかあることから、原因を見つけるために検査を十分に行う必要があります。その上で、他の治療方法(薬剤、カテーテルアブレーション、ICDなど)では命を守ることが難しいと判断される場合に行われます。(図2

●不整脈の外科治療については、不整脈外科研究会ホームページにも詳しく解説されていますので、こちらもご参照下さい。
http://arrhythm.umin.jp/index.html

図2 致死性心室性不整脈手術の1例:ドール手術

図2 致死性心室性不整脈手術の1例:ドール手術
Dor ら. J Thorac Cardiovasc Surg 1994;107:1301-1308 より引用

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