日本不整脈心電学会

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2018年9月

高月誠司(慶應義塾大学医学部循環器内科)

Q84歳、女性。数日前から胸背部の違和感を自覚し、近医で心電図異常を指摘され、来院。CPKは正常、血清トロポニンは1.5ng/mlと高値であった。冠動脈リスク因子はなく、心エコー上心尖部に無収縮を認めるも、冠動脈造影は正常であった。考えられる疾患はどれか。
1) 急性心筋梗塞
2) 急性心膜炎
3) 特発性心室瘤
4) 早期再分極異常
5) たこつぼ型心筋症
回答と解説はこちらから   

【解答】

5) たこつぼ型心筋症

【解説】

V2からV6まで、ST上昇とT波の陰転化を認める。上記の5つはすべてST上昇をきたす疾患であるが、通常2,3,4ではT波陰転化をきたすことはなく、急性心筋梗塞とたこつぼ型心筋症の鑑別が必要である。たこつぼ型心筋症では典型的にはST上昇後に数日単位でT波陰転化をきたし、その後徐々に心電図が正常化する。急性期に左室心尖部が収縮期に心室瘤のようにバルーニングするが、それがST上昇に反映され、通常心筋梗塞のようなミラーイメージを伴わない。V1誘導を含むST上昇、またII、III、aVFのみのST上昇はたこつぼ型心筋症より心筋梗塞を示唆する。本例の心電図では、II、III、aVF誘導のR波減高と前胸部誘導のV2からV6にかけてR波増高不良を認め、心尖部から前壁、下壁の心筋障害・心筋浮腫が示唆される。亜急性期の心筋梗塞と鑑別が難しいが、高齢女性、冠動脈リスク因子がなく、冠動脈所見は正常であり、心電図はたこつぼ心筋症の回復期に矛盾しない所見である。正解は5のたこつぼ型心筋症である。

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